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事例研究:ヴォランティア団体の天災対策 - オール・ハンズ・ヴォランティアズのテキサス州アランザス・パス市の拠点

災害とヴォランティア

米国最大級の天災、ハリケーン・ハービー、は、2017年8月25日の夕方にテキサス州に上陸し、30日まで停滞し記録的な大雨を落とした。ハービーは、横須賀市の姉妹都市、コーパス・クリスティ市のおよそ33キロ北東にあるポート・アランザス市で上陸し、最大風速210キロの強烈な暴風でポート・アランザス市とその隣にあるアランザス・パス市などを襲い、しばらく海上を通ってから再上陸した。26日から9月の上旬に入るまでヒューストン市の周辺からルイジアナ州との境まで大雨による洪水を発生させ、152センチ以上の豪雨と11兆円から22兆円までの被害をもたらした。


米国では、緊急の場合、市町村レベルから連邦政府のFEMAまでの行政機関は、もちろん、対応するが、このような甚大な天災に直面し、追いつかない状態にすぐ陥る。ハービーの集中豪雨による洪水に巻き込まれた被害者の救出や救援物資の配給に「ケイジャン・ネイビー(Cajun Navy)などの個人ヴォランティアの活動が広くニューズに伝えられたように、昔から、個人が自発的に周りの人を助けることがあったが、幸運にも、近年、このような個人の活動と平行して、様々なヴォランティア団体が天災の発生前からでも対応できるようになっている。特に、ハリケーンの場合、上陸する前から被害の予測に基づいて準備態勢に入る団体もある。それから、行政機関とパートナーシップを組んで救援物資の配給から被災住宅の再築まで手伝うことができる。

オール・ハンズ・ヴォランティアズ

大規模な団体がどういう風に活動するかの例とし、その中のひとつを取り上げたいと思う。オール・ハンズ・ヴォランティアズ(All Hands Volunteers / AHV:https://www.hands.org/)という団体は、2004年12月のインドネシア地震と津波の後、アメリカ人のビジネスマン、デーヴィド・キャンベル氏、が一週間のヴォランティアのつもりでタイに飛んでいき、一週間が一ヶ月になり、結局、彼がハンズ・オン・タイランド(Hands On Thailand)というヴォランティア団体を設立した。2005年のハリケーンカトリーナに対応するために、ハンズ・オン・USAを設立し、それが2010年にオール・ハンズ・ヴォランティアズになった。(今年の11月に、AHVがもうひとつの団体と合併し、「オール・ハンズ・アンド・ハーツ:スマート・レスポンス」(All Hands and Hearts:Smart Response / AHAH)になった。)

AHVのミッションは「Respond / Recover / Renew」(対応する・復興する・改善する)とされていたが、AHAHの「Smart Response」(賢い対応)の原則が多少変わり、「Response / Recovery / Resilience / Renewal」(対応・復興・強靭・改善)になっている。その違いは、災害に対応することにフォーカスをするより、ヴォランティアが活動しながら、そのコミュニティと交流し、単なる「元に戻す」よりも、復興のプロセスによって社会的かつ物質的に改善対策を作り出し、以前よりいい状態にさせる考え方である。


活動地域は米国が中心となっていても、全世界を舞台にし、タイのほかにインドネシア、フィリピン、ペルー、ネパール等で、2011年の4月から11月まで東日本大震災に対応し、岩手県大船渡市で泥出しや写真の洗浄等を行ったこともある。

被害調査団

普段、天災が発生する場合、できれば、事前に準備体制に入り、終わってからすぐ「被害調査団」(Disaster Assessment Response Team)を派遣し、地方行政機関と相談した上で事情を調べ、被害が大きいと対応方法の計画を立てる。

ハービーの場合、AHVがヒューストン市とコーパス・クリスティ市に被害調査団を派遣した。コーパス・クリスティ市の場合、2名から成る調査団を出し被害の程度を多少把握してから、4名から成る第二調査団を派遣した。第二調査団が徹底的に上陸した周辺の町を調べた結果、被害が最初思っていたより大きいとわかり、ダメージが大きい割に地元の財源が乏しく、メディアにあまり注目されていないアランザス・パス市を助けることにした。それから、ヴォランティアの調整をしながら、拠点の設立やロジスティックスのアレンジに移行した。


これと同時に、他の団体(Samaritan’s Purse, Team Rubicon等)が周りの町に行って同じように活動を始めた。各団体は、相談しあって、活動区域を分けるのが普通である。

自発的無所属ヴォランティア

FEMAは州・郡(カウンティ)・市町村の危機管理機関に対するガイドラインの中で、自発的無所属ヴォランティア(Spontaneous Unaffiliated Volunteers / SUV)や寄贈品の受け入れと利用方法の計画策定を求めている(「義務付け」よりも「勧告」のかたちで)。ヴォランティア受付センター(Volunteer Reception Center / VRC)の設立や運営に関する基礎的なガイドラインを提供するが、各危機管理機関によって多少異なるし、各緊急事態によっても異なる。郡・市町村の危機管理機関が直接運営する場合もあれば、経験や資格のあるヴォランティア団体等に任せることもある。

VRCは、情報収集・普及の両役割を果たしながら、個人や団体のヴォランティアの活動を調整したり、市民からの問い合わせを受け入れたり、そのニーズに答えるように救援物資を配ったり支援サービスを紹介したりする。

AHVはアランザス・パス市のVRCを運営することになった。これと共に、AHVのチームリーダーが、経験のないヴォランティアに、活動をしながら、災害対応のトレーニングを行った。

教会がよいパートナーに

徐々にAHVの拠点の設立等を担当するチームの人数が増え、AirBnBのサポートで一軒の家を借り、しばらくしてから図書館に移り、最初のころ、一日20時間以上働き、VRCの運営も担当しながら市役所やコミュニティグループと相談し、市民のニーズを調べたり利用できる施設を探したりした。

拠点には、40・50人が生活できる台所・厨房、トイレ、シャワー、テーブルや椅子、駐車場、室内の寝るスペース等が最低必要条件で、南テキサスがあまりに暑いので、クーラーが入っていることも必要条件であるとすぐわかってきたらしい。

結局、ファースト・ユナイテド・メソディスト・教会(First United Methodist Church)のメンバーが手を上げ、教会の建物とその裏にある多目的ホールを無料で提供した。必要条件の中のシャワーは、2つしかなく、足りないが、アランザス・パス市はファーストレスポンダーや風呂場がだめになった市民のためにシャワートレーラーを用意したので、それを使わせてもらうことにした。


ヴォランティア団体の被災地での活動は、大体、数週間から数ヶ月までの期間で行われ、拠点に宿泊施設が含まれているかどうかは場合によるが、AHVは2年間テキサス州で復興活動に努めると発表したので、スタッフも全世界から集まってくるヴォランティアも長時間宿泊できるスペースが必要になった。

同拠点は最初のころ、全員がエアーマットレスや寝袋を使い、多目的ホールのコンクリートの床の上に寝ていた。しかし、他の町の教会から、何らかの形で、ヴォランティアとして貢献したいけれど、グループを連れてアランザス・パスに行って泊まりながらするのが難しく、ほかに自分の町からできることはないかという問い合わせがあり、相談すると、AHVのほうから、もし、二段ベッドがあればかなり助かるとのアイディアが出された。結局、その町の方々が材料を寄付し、二段ベッドの部品を作り、アランザス・パスにもって行ってから組み立てた。その市民の支援のおかげで、AHVは最高30人ぐらいのヴォランティアのキャパシティが倍増した。従って、倍ぐらいアランザス・パスの市民が手伝えるようになった。


団体を支える団体

設備があっても、他に要するものが多い。コンピューターやインターネットアクセス、電話、無線、地理情報システム(GIS)等、コミュニケーションや情報処理の機能がないと効率よく活動できない。しかし、お金と専門知識が必要で、非営利のヴォランティアのグループにとってはかなりのネックになる。幸運にも、情報技術災害資源センター(Information Technology Disaster Resource Center / ITDRC:https://itdrc.org/)という非営利団体が機械や技術を提供する。AHVがITDRCと常にパートナーシップを持ち、すぐに拠点の運営センターが設立できた。


倒れた木の除去、泥だし、解体作業等はすべて道具がないとできない。集めるのに時間もお金もかかるので、ヴォランティア団体を支援するために道具を低コストで提供するツールバーンク(ToolBank:http://www.toolbank.org/)という非営利団体もある。初めてのツールバンクは1991年にアトランタ市で設立された。それから、全米を活動区域としてアトランタのツールバンクが「親」としてニーズにこたえるために認定される「子」のツールバンクの設立を支援する。道具を非営利団体にしか貸し出さないので、道具のいる団体は正式な非営利団体であることを証明してツールバンクの認定をもらってから、必要な道具を申し込み、一週間単位でその道具の全額の3パーセント相当の手数料を払って使わせてもらう。もし、道具が返却されなかったら、代替費用を払わないといけない。


スタッフ

AHVの拠点に雇われているスタッフとヴォランティア(無償)のスタッフがいる。AHVは非営利団体として、マサチューセッツ州に事務所があり、そのスタッフがフルタイムであるが、被災地で活動するスタッフは、短期契約によって雇われることもある。また、3・4週間以上続けて参加するヴォランティアは、経験を得るためにいろいろな責任のあるポジション(チームリーダーやベースマネージャー等)を引き受けることが勧められている。

アランザス・パスの拠点に、雇われているスタッフとして、フィリピンなどでの経験豊富なプロジェクト・ディレクター(Project Director)の指導の下に、ヴォランティアとの連絡担当のヴォランティア関係コーディネーター(Volunteer Relations Coordinator)、募金活動担当のヴォランティアエンゲージメントコーディネーター(Volunteer Engagement Coordinator)、スケジュール等を担当するロジスティックスマネージャー(Logistics Manager)、災害評価の担当者(Assessors)。この他に、無償のヴォランティアポジションは、拠点の日常的運営を指導するベースマネージャーや道具の管理をする担当がある。場合によって、ヴォランティアのポジションは2人・3人に分けることもあるらしい。

ホームオーナー(家の所有者)などの申し込みに基づき、災害評価の担当者が被害調査を行い、必要な仕事ができるかどうかや現場は安全であるかどうかなどを判断してから、対応策の計画を立てる。このプロセスを経てから、ヴォランティアのチームがその現場に派遣される。主な活動は時間に連れて代わってくるが、倒れた木の切り刻みと処分、泥だし、解体作業、かび対策と、場合によって、再築の段階がある。この仕事を行うチームは、経験のあるヴォランティアの中からチームリーダーとそのアシスタントが拠点のスタッフに選ばれる。それから、AHVの場合、残りのヴォランティアが毎日のチームミーティングで参加したいチームを自分で選び、サインアップする。


ヴォランティアの時間の価値

AHVのような団体やVRCのひとつの重大な役割は、ヴォランティアの活動する時間を記録することである。災害の際、対応・復興の責任を担う行政団体(ほとんどの場合は市町村になる)はFEMAの助成金がもらえるが、全額をもらっても、最終的に10パーセントから25パーセントまでのコストシェアをしなければならない。それで、方針として、FEMAはお金を返済してもらう代わりにヴォランティアの労働時間や寄付される物資の相当金額をコストとして容認する。これを計算するには様々な条件があるが、第一としては、寄付された労働時間やその仕事の内容の記録がないといけない。それで、ヴォランティアのスケジュールを組む責任者がヴォランティアの活動を正確にトラッキングし、行政団体に伝えることが大切である。

拠点での生活

AHVの場合、ヴォランティアは、自腹で拠点まで行けば、宿泊と一日三食が提供される。それから、洗濯や自分のための食べ物や飲み物などに多少お金を使うだろうが、負担が少ない。食事は、朝と昼に簡単なもの(シリアルやサンドウィッチの材料等)が置かれ、夜は、毎日、ヴォランティア一人か二人がさらにヴォランティアし、皆に食事を作ってあげる。他の拠点では、たとえば、ホストの教会のメンバーが食事を作ってくれるか、あるいはすべてのヴォランティアが食事担当の日を選び、サイン・アップをする義務を持つ。

共同生活なので、典型的な一日として午前7時に電気がつき、起床時間となっている。朝食を食べたりしてから、8時から道具等をトラックに積み、その日の現場に行く。テキサス州の場合、とても暑いので、昼食を持っていかずに、12時ごろ、1時間程度拠点に戻り、昼食を食べる。それからまた現場に行き、4時半ごろまで活動する。終わってから、道具等を消毒したり元に戻したり、シャワーをあびたりする。ちょっとした休憩時間があってから、日によって多少順番ややり方が異なるが、5時半から、全員参加する義務のあるデイリーミーティングと晩御飯がある。それが終わったら、10時の消灯まで自由時間になる。火曜日から日曜日までの週6日のスケジュールで、月曜日は定休日。月曜日に、朝、コーヒーは出るが、それ以外食べ物も何もないので、みな自分だけの時間をとったり、あるいは友達と一緒に遊びに行ったりする。

ヴォランティアを終えてから

参加が終わってから、AHVのボランティアをしたいなら、アラムナイとして登録し、AHVの最新情報や求人広告にアクセスできる。一回に限って参加する人もいれば、経験や技術を得ながら続けて参加する人もある。

無料でヴォランティアする代わりに、参加者やアラムナイに、募金活動や定期的に寄付することも求められる。

AHVは、活動しているときに、ホームオーナーと話すことや毎日のチームミーティングでその日の印象深いことや感心するチームメートの活動内容等をシェアすることを促し、全面的に人間関係を重視し、AHVと市民の両方のコミュニティに対するヴォランティアの愛着心を養おうとする。終わってからも、様々なかたちで、貴重な経験をヴォランティアと団体の両者のために役立たせる努力を続ける。

Matthew Gillam

2017年12月