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白紙から設立した自治体・ジョージア州サンディスプリングス市の「民営」戦略

概要:公務員をほとんど雇わずに民間事業と契約を結び市民にサービス提供を行っているアトランタ市郊外の都市の最新情報

米国ジョージア州の人口約94,000人のサンディスプリングス市(City of Sandy Springs)は州都アトランタの郊外にある。同市は富裕層の多い地域で、2005年までは貧富の差の大きなフルトン郡(Fulton County)の直轄地であったが、同郡のサービス提供等に対して不満を抱き、長年独立(自治体の設立)を目指していた。しかし、州議会では当時与党であった民主党の反対でブロックされていた。その後2005年に、独立運動を支持した共和党が州議会の両院の与党となって自治体設立に必要な住民投票が認可され、サンディスプリングス市はその結果により設立された。

住民投票の結果が判明し、市の設立が決まってから実際に市としての運営が始まるまでの期間はわずか6ヶ月しかなく、その間に市政に必要な組織を立ち上げる必要があった。こうした独特な設立の背景があったことに加え、独立運動のリーダーの一人であったオリバー・ポーターさんは保守派のレーガン大統領や自由市場資本主義を訴えた経済学者のフリドリッヒ・ハイエクのファンであり、自分の職業人生も民間会社で過ごしたので、できれば、市の運営は普通の市役所のような公共組織が行うよりも民間企業に委ねたほうが望ましいと考えていた。したがって、一番スピーディで効率的に市の組織を立ち上げる方法として、さまざまな運営・管理業務を実施する民間企業の間で競争入札を行い、最も低コスト・高能力の入札者を選ぶことにした。同市は最終的にはCH2M Hill社と契約を結び、5年半の間、同社が警察と消防を除くすべての行政サービス提供を担当した。公務員を雇わずにCH2M Hill社にサービス提供を委託したおかげで、数百万ドルの節約ができたそうである。

市政管理者(City Manager)のジョン・マクダノー(John F. McDonough)さんによると、当初は、警察及び消防の業務はフルトン郡と契約を結んで提供してもらっていたが、不満があって2006年7月に警察を、そして同年12月に消防局を、通常のやり方で公務員として職員を雇って設立した。両方ともいくつもの賞をもらったりして評判が大変良いそうである。警察官と消防士は合計で265人ぐらいで、市政管理者等7人の市の管理職を含めると約270人が正式な公務員である。それにおよそ165人の契約職員が加わって市政を運営している。

サンディスプリングス市は、2010年から2011年にかけて、行財政管理をさらに効率化するために委託方針の見直しを行った。市全体の「サービス」を7つの個別分野に分けて、競争入札によって5つの会社を選び、別々に委託した。CH2M Hill社は現在まだコールセンターを担当しているが、他の分野は別の業者に流れた。この契約方針の改正のおかげで支出がさらに年間700万ドルほど減少したとのことである。

サンディスプリングス市にとっては、競争があれば出費の節約が期待できる上、企業に対する立場も強くなるという利点もある。競争入札が終わってからも、契約を勝ち得た会社が値上げをしたり責任を怠ったりしないよう、市は、歳出負担を伴わない予備的な契約を競争入札に負けた二つの会社と結んでおり、なにか起きればすぐにサービス供給をそれらの会社に切り替えられる形にしている。

しかし、他の都市の場合は、このように民間企業に委託を試みて失敗した例が多い。ニューヨーク市では教育・保育・住宅・医療等に関する委託事業費の不正使用事件が続発した。このような悪例は大都市から田舎町まで多く存在する。

委託事業やアウトソーシングがうまくいかない根本的な原因の一つは、契約書の書き方である。契約書によって管理の仕組みが決まるので、工夫して書かないと、後にさまざまな問題が生じかねない。サンディスプリングス市の場合、最初のCH2M Hill 社との契約に業績評価の仕組みはまったくなかった。その後、業績の測定・評価の仕組を開発してきた。その一環として、サービスの提供者は入札時に独自の業績評価基準の提供も義務付けられ、サービス提供の評価にそれを利用する。同基準と発表の義務は市によって定義されている。2011年の委託制度の改正によって、すべての委託事業に対して業績測定・評価の仕組みが導入され、これを反映する契約書を作成し、適用している。

また、意思決定を速やかに行い、経費節減につなげるため、受託会社から派遣される各部局の局長(department director)は「現場監督」(“on-site lead”)の役割を果たし、ほとんどの場合の意思決定が一人でできるようになっている。各受託会社に、契約に関連する課題を担当する「事業長」(project executive)も一人ずつ置かれている。

委託事業を管理するために三種類の情報収集も行う。一つは市の管理部門に毎日提供されるデイリー・レポートである。各部局の活動を数字や統計で表し、主な出来事も伝える。なお、これをまとめ、毎週月曜日に局長等、市の管理職が集まり、前の週のレポートと今週の予定について打ち合わせをする。それから、サービス提供に関する課題を市長、市議会議員等にも毎週報告する。もう一つは、受託会社から四半期ごとに市政管理官室に提供される四半期レポートである。このうち毎年一月に提供される報告は、市政管理者が市政の中間報告に取り入れて市議会に報告する。三つ目の情報源は市民からのフィードバック。311(非緊急の苦情・相談受付電話番号)への電話は毎週およそ2,300件もあり、スタッフがその内容から把握する主な課題を管理職に伝える。これと合わせて、場合によっては、一団の市民を選んで意見を徴収し、市民やビジネスのニーズを満たしているかどうかを確認する、フォーカス・グループ(focus group)と呼ばれる調査手法も用いている。最近では、フォーカス・グループを連続して開催し、市民はどのようなパフォーマンス目標を取り入れてほしいと考えているかを調べ、改善されたパフォーマンス測定システムにこれを幾つか加える予定である。

他の市でも行政サービスの提供を民間に委託する例がある。サンディスプリングス市の「先輩」ともいえるフロリダ州のウェストン市(City of Weston)は、1996年に設立され、警察と消防まで委託している人口65,000人の町である。サンディスプリングス市と同じように、大都市マイアミの郊外にある富裕層の多い地域で、もともと郡の管轄下にあった。市職員はたった9人で、およそ285人の常勤の委託職員を管理する。もう一つの最近の例は、カリフォルニア州のメイウッド市(City of Maywood)である。2010年に、財政赤字も多少あったが、一番大きな問題は、市を被告とする多数の損害賠償請求訴訟が起こったことで、市職員の活動に伴って生じる市の賠償義務をカバーする保険を提供する保険会社がなくなり、警察や消防活動ができなくなり、仕方なく市政管理官を除いて市職員をすべて解雇した。ただし、サンディスプリングス市やウェストン市のように民間企業に委託したのではなく、ロス・アンゼルス郡が警察と消防活動を担当し、その他のサービス提供は隣の町に委ねたのである。

サンディスプリングス市やウェストン市は、ほとんど白紙の状態から設立された市であるため、行政組織に関する制限は通常より少なく、斬新なものにできる自由があった。しかし、そうした自由がなくとも、行財政難に陥っている市町村も、この例を見て自分にふさわしい解決策を考慮しても良いであろう。

2012年9月4日 

Senior Researcher Matthew Gillam