ミシガン州ノヴァイ市は、デトロイト近郊に位置し、人口約60,000人(2013年推計値)のうち日本人は約2,600人(2013年4月現在)。日系企業の集積を背景に同州最大の日本人コミュニティを形成しています。同市は当事務所とも縁が深く、今年も訪問を受け入れていただきました。ここでは、今回視察を行った施設の一部(ノヴァイ高校、消防署)と、市長等との意見交換を通じて得た感じた点などをご紹介します。
1 市ではなく「学校区」が運営する公立高校
私たちに最も身近な行政施設のひとつである公立学校。米国においては、特定目的の地方自治体である「学校区」によって建設され、教育サービスが提供されるのが一般的です。今回訪問したノヴァイ高校も、その設置・運営はノヴァイ市ではなく、ノヴァイ学校区(Novi Community School District)が担っていました。
同校は市内唯一の公立高校であり、生徒数はおよそ2,000人、職員も150名以上と、日本の一般的な高校と比べ大規模なものとなっています。
校舎に入ると、カフェテリアのような開放的なエントランスにまず驚かされますが、すべての教室にオンライン設備があり、通常の体育館に加えダンス練習室やシアターが完備されているなど、学習環境の充実ぶりには目を見張るものがあります。課外においても、スポーツ、演劇、音楽、新聞、語学など、ヴァラエティ豊かなクラブ活動が行われており、視察中も吹奏楽等様々な活動に熱心に取り組む生徒の姿が見られました。同校には日本人生徒も多数在籍しており、時おり日本語の会話も耳にすることができました。
同校に入学試験はありません。しかし、2014年度は95.7%が大学に進学、ハーヴァード大学、マサチューセッツ工科大学等の難関校への進学実績を誇ります。近年日本では公立高校と私立高校の間での生徒獲得競争が話題となっていますが、校長のNicole Carter氏によれば、当地にも複数の私立高校が所在しているものの、特にそういった問題は生じていないとのこと。
地域に根ざした運営をしつつも充実した学習環境を誇る同校は、視察に同行いただいた市職員の母校でもありました。
2 消防本部と警察本部が融合?
警察は都道府県、消防は市町村(近年では広域化が進んでいます)と役割分担が決まっている日本。ノヴァイ市においてはともに市が運営し、更に特徴的なのはトップを同一人物(David E. Molloy氏)が兼務、本部オフィスも同居していることです。高い専門性が求められる両部門ですが、これらの工夫により連携協力は非常にスムーズであるとのことで、時に警察・消防の連携について課題が指摘される日本においても示唆に富む手法かと思います。
今回の訪問では、警察・消防本部とともに、市内に4か所ある消防署のひとつを視察しました。署にはそれぞれ管轄区域が設定され、管轄区域同士連携を取りながら業務を行っており、さらに、大規模な火災が発生した場合は、市外の消防署に協力を仰ぐ等の協力体制も確立されているとのこと。消防士は救急隊(EMS)の役割も担っており、消防車には救命機器も多数搭載されていました。市民向けにも開催されている救命処置講習の見学や、放水車による放水も体験することができました。
ところで、日本の常識からすると理解し難いことですが、米国においては市が住民主導で設立されることから、ノヴァイ市域に周囲を囲まれながらも、住民の意思で同市に加わっていない区域(タウンシップ)が存在します。
人口百数十名程度というこの狭い区域は原則として市行政の管轄外ですが、副シティマネージャーのVictor Cardenas氏によれば、タウンシップはノヴァイ市から消防・図書館利用等の行政サービスを受ける契約を締結しているとのことです。
3 市長等との意見交換
ノヴァイ市の運営は、公選の市長及び6人の議員で構成される市議会、そして市議会が任命するシティマネージャーによって担われています。訪問中、ノヴァイ市議会において挨拶する機会をいただき、丸野所長補佐が当事務所を代表してスピーチを行いました。
市長のBob Gatt氏は昨年、クレア主催の「海外自治体幹部交流協力セミナー」で来日頂いたこともあり、我々を非常に歓待していただきました。印象的だったのは、懇親会の席上、ノヴァイ市の課題について思い当たることはないか尋ねられたことです。私からは、ホテル周辺を散策した際に歩道が整備されていない部分があり難儀した旨を率直に話したところ、その問題については我々も認識しているとの回答がありました。行政学の区分でいえばノヴァイ市は「議会-シティマネージャー型」に区分され、同制度のもとでは市長は単に儀礼的な存在であると語られることも多いのですが、同氏は市長として、あるいは市議会議員の一員として、自らの立場で市の課題に向き合っておられることを強く感じた出来事でした。
市議会議員職は非常勤・無報酬ですが、議員のLaura Marie Casey氏に、普段の仕事と二足のわらじを履くことに困難はないか尋ねたところ、議員の仕事に配慮してデトロイトの勤務先(GM社)には在宅勤務を認めてもらっているとのことでした。地方議会に関しては、近年日本では米国のそれを手本とすべきとの議論も盛んになっていますが、同市では単に議会が夕方開催だからというだけでなく、本人の情熱と周囲の理解により制度が支えられていることを実感しました。
市行政の実務を担うシティマネージャーのPete Auger氏は昨年9月に着任したばかりですが、コミュニケーション能力に長け、行政経験豊かな人物であるとの印象を受けました。
4 おわりに
計4日間の訪問を通じて、他にも図書館、総合病院等多くの施設を訪問する機会を得ましたが、インターネットや文献の上でのみ知っていた米国の地方行政について、その実態の片鱗なりとも感じとることができたことは非常に有意義な経験となりました。緑溢れる美しい環境に瀟洒な邸宅が点在するノヴァイの光景をつぶさに見て、私たちがまだ米国に学ぶ点は多いのではないかと考えさせられました。