コロナウイルスの感染拡大はとどまることなく、10月下旬からは全米で第1波を上回る勢いを見せており、1月末の1週間で全米における新たな感染者は100万人を上回った。1月末日時点でこれまでの感染者は2600万人に迫り、死者は43万人を超えた。この状況を受けて各州は、再びロックダウンを導入するなど、感染拡大の抑制に向けた対策に追われている。
米国には日本の新型インフルエンザ等対策特別措置法のようなパンデミックに対処するための特別な仕組みはなく、新型コロナウイルスには危機管理及び公衆衛生の一般ルールに基づき対応している。今回の新型コロナウイルスの感染は全土に及び、またその規模・社会的影響も甚大であることから、連邦政府の果たす役割は大きくなっている。
その一方で、連邦国家である米国では、内政の中心となるのは州であり、危機管理や公衆衛生に係る対策は各州の法令に基づいて行われる。今回のブログでは、インディアナ州のコロナ対策について取り上げることとしたい。
⑴ インディアナ州のコロナウイルスの現状について
インディアナ州で最初にコロナウイルスの感染者が発見されたのは、3月6日州都インディアナポリス市があるマリオン郡である。インディアナ州においては、コロナ発生の初期段階における急激な感染者の増加は見られなかったが、4月に死亡者や陽性率で高水準を記録し、第1波を迎えた。その後は一旦死亡者数や陽性率は減少し、感染者数の増加も落ち着いていた。しかし、10月下旬頃からインディアナ州でも感染者の急増が始まっており、陽性率、死亡者数ともに第1波に迫る勢いとなっている。入院患者も12月には3,000人を超えた日もあり、ICUベッド数や人工呼吸器の不足による医療体制のひっ迫が懸念される
感染者の属性は基本的に全米の傾向と類似している。若年層の感染者が多い傾向にあり、20代までで全体の3割を超える。また、死亡者は60代以上が9割を占めており、高齢者への感染拡大防止が課題となっている。
PCR検査実施件数 7,067,175件(陽性率(累計)21.2%) (以下いずれも2021年2月1日現在)
感染者数 累積629,903人、1日当たり1,567人
入院患者数(感染確認中の者を含む) 1,624人
死亡者数 9,677人
⑵ コロナ対策について
インディアナ州では、州法第10編14条3章危機管理及び災害法(Emergency Management and Disaster Law)に基づいて、知事は災害が生じた場合もしくは生じる可能性が差し迫っている場合には、行政命令もしくは布告により非常事態を宣言することができるようになっている。同法によると「災害」とは、自然災害のほかに伝染病(Epidemic)や公衆衛生における緊急事態(Public health emergency)を含むと定義されている。今回のコロナウイルスはこれに該当するとされた。知事は非常事態を宣言することで州憲法及び合衆国憲法・連邦法に抵触しない範囲で、公衆衛生における緊急事態に対処するために必要となる命令、指示、規則などの制定や改廃ができるようになり、様々な対応を行うことが可能となる。また、州法第16編19条3章では同州の公衆衛生局が隔離措置を行うことができるほか、疫病の予防と抑制の観点から合理的で必要な措置を講じることができると規定されている。
この法律に基づき、初めてコロナウイルス感染者が発見された3月6日に、ホルコム知事は州内に公衆衛生における非常事態を宣言し、23日には州内の住民に対し自宅滞在命令を発令した。
以下、これまでのインディアナ州政府による対策について、主なものをまとめた。
①ロックダウンの実施
ホルコム知事は、インディアナ州民に対し3月24日から5月1日の期間で、自宅滞在命令(Stay-at-Home Order)を実施した。命令期間中は、「必要不可欠な活動」のための外出を除いて、感染拡大を防ぐため公私を問わず住居外でのいかなる人数の集まりも禁止されたほか、住居内であっても10人以上の集まりは禁止となった。生活に必要不可欠なものを販売しているスーパーや薬局、ガソリンスタンドは通常どおり営業を行っており、自宅滞在命令発令中も生活に欠かせない活動のための外出は認められた。外出可能とされた例は以下のとおり。
なお、自宅滞在命令に従わない場合は、インディアナ州警察が州の法執行機関とともに命令に従うよう指導を行うこととされた。また、企業等の命令違反に係る通報に対して調査を行うため、命令施行後に法執行対応チームが新たに編成された。命令に従わない場合は、法執行対応チームが口頭での警告を行い、それでも命令に従わない場合には、書面による中止命令が出され、事業の閉鎖命令、更には営業免許や許可が取消されるとともに、地方検察官が起訴し、最長 180 日の収監及び最大 1,000ドルの罰金を科す措置が取られた。
②経済活動再開に向けた復興計画の策定
5月1日、経済活動を段階的に再開するための復興計画として、4つの原則と5つの段階を発表した。3月24日から5月4日までを第1段階とし、感染者数が多い一部の郡を除き、5月4日から開始する第2段階に移行することになった。第2段階から徐々に規制を緩め、それまで禁止されていた旅行や移動の解禁、一定の人数以下での集会、入場者を制限した上での店舗営業が再開された。次の段階への移行に当たっては州政府が4つの原則等に照らしながら、郡ごとに段階を進めてもよいか判断することとなった。
4つの原則
1 新型コロナウイルスによる入院患者数
2 ICU 病床と人工呼吸器の利用可能数
3 新型コロナウイルスの検査可能数
4 新たな患者が出た時に追跡ができる体制
第1段階 3月23日~5月4日
第2段階 5月4日~5月22日
第3段階 5月22日~6月12日
例:
第4段階 6月12日~7月2日
例:
第4.5段階 7月2日~9月25日
当初の予定では、7月4日から第5段階への移行を予定していたが、感染状況の悪化を受けて、第5段階への移行前に4.5段階を急遽設けることになった。
第4段階からの変更点:
第5段階 9月26日~11月14日
行政命令に記載されている要求、規制及び禁止事項に従う限り、営利・非営利団体又は教育機関等の活動は通常通りに再開・実施することを可能とする。
行政命令に記載されている主な要求、規制及び禁止事項:
③ 検査体制
PCR検査施設は、2021年2月1日現在、州内で292か所設けている。施設が一番多いのは、州都インディアナポリス市を有するマリオン郡(Marion county)で38か所ある。Optum/LHI(連邦の健康サービスを担う民間の医療会社)が無料の検査場を設けているほか、薬局(CVS Pharmacy、Walgreensなど)をはじめとした医療サービス提供機関も州内各所に検査施設を設置している。施設によって、事前予約が必要なところ、医師の診断が必要なところ、ドライブスルー形式を導入しているところなど様々である。民間保険加入者は、有料の検査機関でも保険で賄われる。これまでに抗原検査も含めて州内で700万件以上実施している(2月1日現在)。各検査場の詳細は、州のホームページで確認できる。
④ 感染状況のモニタリング
インディアナ州公衆衛生局(Indiana State Department of Health、以下ISDHという。)では各郡の感染拡大状況の変化を把握するため、毎週更新されるスコアマップを導入している。このマップでは、各郡における直近7日間の感染率と10万人当たりの感染者数に基づいて色分けされる。公衆衛生局、インディアナ州民にとって、地域のコミュニティを守り、感染を広めることなく最善の決定を行う際の指針になるものである。
それぞれの基準で算出されたポイントの合計値の平均(2で除した値)が以下のいずれに該当するかで、その郡の1週間の色の分類が確定する。
青色の郡 0もしくは0.5ポイント
黄色の郡 1.0もしくは1.5ポイント
オレンジ色の郡 2.0もしくは2.5ポイント
赤色の郡 3.0ポイント
例
より厳しい色分けへの変更(青から黄への変更など)は基準を満たし次第、即座に変更され、逆により緩やかな色分けへの変更(赤からオレンジなど)は2週間続けて基準を満たす必要がある。
地区別に設けられている規制は以下のとおり。
2月1日時点のマップ(出典:インディアナ州HP)
青色の郡
黄色の郡
オレンジ色の郡
赤色の郡
⑤ ワクチン接種の開始
昨年12月からは、コロナウイルスワクチンの接種が開始されている。優先順位を基準に接種対象者を4つの段階(1-A、1-B、2、3)に分けている。最初の段階(1-A)では医療従事者、長期療養施設入所者、児童養護施設等の若年者を対象とする施設の従事者、消防局や法執行機関の職員、ボランティア等を対象に接種が行われている。1月6日からは次の段階(1-B)に移行し、80歳以上を対象に接種が開始された。対象年齢は順次拡大される予定である。
アメリカは11月の感謝祭の連休から年明けまでのホリデーシーズンを経て、他国と同様に感染拡大の第3波に見舞われている。現在は先進国を中心とする一部の国だけでワクチン接種が開始された状態であり、世界中に広く普及するまでにはまだまだ時間がかかると見られ、WHOは2021年中の世界における集団免疫の獲得は難しいとの見解を示している。今後も各州において感染対策の徹底が求められている。