2021年という新しい節目を迎えた今もコロナ禍で暗いニュースが行きかう日々であるが、そんな時にも希望の光は差し込むものである。
今年春、ニューヨーク市内マンハッタンの西側ハドソンリバー上にLittle Island(リトル・アイランド)※1という新しい公園が誕生する。
水面から浮いた木の葉のようなデザインが特徴で、広さは2.4エーカー(約9700㎡)、丘や遊歩道、芝生そしてマンハッタンの景色も眺めることができるスポットである。
公式HPより
公園の建設地は、2012年のハリケーンサンディによって被害を受けたピア54と呼ばれる埠頭を中心としており、ここを修復し発展させるため2013年にBally Diller ※2がハドソンリバーパークトラスト※3とパートナーシップを組んだことから始まった。Dillerは“自然”と“アート”によって訪れる人々が素晴らしい体験をできるような全く新しい公共空間を作り出すことを目指してきた。
ロンドンの建築設計デザインファームであるHeatherwick StudioとニューヨークのランドスケープデザインファームMNLAが建築的なイノベーションと魅力的なランドスケープを組み合わせることでDillerのビジョンの実現を実現しようとプロジェクトを進行してきた。
未来を見据えたランドスケープデザイン
リトル・アイランドのランドスケープデザインを担当しているSigne Nielsenによると、19世紀にデザインされたプロスペクトパークやセントラルパークは「余暇を楽しむ」や「センス・オブ・ワンダー」がキーワードであったが、リトル・アイランドにおいてはそれらの要素に加えて「気候変動に対するレジリアンス(回復力)」を重視したという。水面から浮いているような構造にしているのも単にデザイン的な観点でそうしているのではなく、将来的な海面上昇を考慮してかさ上げしているのである。
複雑な建設プロセス
建設地は埠頭であったため川辺には木製の柱が残っていた。この周辺に形成されている海洋生物の生態系を保全するため、これらの柱を避けるようにしてコンクリートの杭を設置。
さらに魚の回遊シーズンも考慮し5か月の工事休止を挟み、全体として10か月間をかけたという。
公式HPより
杭の上部にはチューリップ型のポットが取り付けられ、このポットが複数つながることで、公園の表面構造をつくり出している。
これらの構造物は、ニューヨーク州グリニッジに本拠を置くコンクリート製造会社によってつくられた後、現場に運ばれた。担当しているエンジニアリングファームの代表Marty Leibrockによると、現場外で各構造物をつくり、現場で組み立てるというこの過程が本プロジェクトの中でも大きな挑戦だったと言う。
10月17日に実施されたウェビナーの様子
多角的にコミュニティを巻き込む
リトル・アイランドの整備にあたっては、近隣地区であるチェルシーやウェストビレッジの住民の日常生活に自然とアートを取り込むため、コミュニティとの連携がオープン前から非常に重視されてきた。
●リトル・アイランドインターンシッププログラム
大学生のキャリアディベロップメントを目的として、2018年から「リトル・アイランド インターンシッププログラム」を実施し、これまで11人を採用してきた。プログラムに参加することで学生たちはリーダーシップやコミュニケーション能力を磨き、公共空間デザインに対する知見を深めることができる。また、インターンを終えた学生たちのグループも結成されており、継続的にリトル・アイランドのプロジェクトに関わっている。
●スクールパートナーシップ
子どもたちがアートを学ぶ出発点として学校も大きな役割を持つ。2019年からアート教育ワークショップを3つの学校と連携し実施し、各学校のニーズや住民の関心に合わせてカリキュラムを作成している。子どもたちだけでなく家族のためのワークショップも行っている。
●コミュニティパートナーシップ
2019年9月から近隣の地域団体とともに、ラテンダンスや演劇、ストーリーテリングを学ぶことができる高齢者向けワークショップを連続的に行っている。
●コミュニティカウンシル
地域コミュニティを巻き込みながらプロジェクトを円滑に進めるため、ビジネス、アート業界のプロフェッショナル、行政関係者、市のコミュニティボード(委員会)※4メンバー、そして若者、高齢者などの近隣住民12人で構成されている組織。コミュニティカウンシルのメンバーは前述のインターンシッププログラムのメンターとしても活躍している。
パフォーマンス
“アート”を重要な要素として掲げているリトル・アイランド。公園内には野外劇場を含む、ライブパフォーマンスができるスペースが複数設置される予定である。
2021年の6月から9月にかけてリトル・アイランドでパフォーマンスを行う参加者を募集(2020年9月に募集は〆切)。ニューヨーク周辺に在住あるいは勤務しているアーティストや音楽隊、バンド、コメディアンなどあらゆる分野のパフォーマーを幅広く対象としている。
選ばれると、パフォーマンスに対する報酬が得られるだけでなく、リトル・アイランドのプログラムに無料で参加できるベネフィットやリトル・アイランドのアーティストコミュニティのネットワークとつながる特別な機会も設ける。
気候変動を考慮したデザインや海洋生態系を保全する建設プロセスはこれからの公共建築には必須の要素であろう。また、公園がオープンする数年前から、地域の子どもたちや高齢者、アーティストなど多くのステークホルダーを巻き込む様々な工夫をしていることが印象的である。これらの事前プログラムに参加した人々はリトル・アイランドへの思い入れもより一層強くなり、将来的にリトル・アイランドを発展させ、盛り上げ、そして守っていくであろう。今春、新たな都会のオアシス誕生に期待が高まる。
※1)リトル・アイランド公式HPhttps://littleisland.org/
※2)アメリカの実業家
※3)1998年、ニューヨーク州は、マンハッタンの海岸線の数マイルに沿って新しい公共公園と河口保護区を設計、建設、運営、維持するためのハドソンリバーパークトラスト(公益法人)を設立する新しい法律を可決。13人の役員は知事、市長、マンハッタン区長によって選出される。
※4)市のコミュニティボードのメンバーはゾーニングなどの決定において大きな力を持っており、リトル・アイランドの取り組みを実現させる上で重要な役割を果たす。