ニューヨークで生活する日本人がボランティア活動を通じて地元の人々やコミュニティと交流する―――そのような機会を数多く生み出し、日本人とニューヨーク市民の相互理解に大きく貢献しているNPOがある。NY de Volunteer Inc.(ニューヨークでボランティア、以下NYdV)の代表、日野紀子さんを取材した。
NY de Volunteerの設立と主な活動
日野さんがNYdVを設立することになる原体験は、ブルックリン南端に位置するリゾート地のコニーアイランドを初めて訪れたときの体験にあった。それは、ゴミであふれる浜辺に失望してとっさにゴミ拾いをはじめたとき、周囲の人達が次々に手伝ってくれ、人と人が集まって生まれる力の大きさを実感したこと。そのときの体験は「誰もが気軽に参加でき、学び、感動を分かち合える」というNYdVの基本方針に反映されている。
現在手掛ける多彩な事業のうち中心は、ニューヨークの主に貧困層の子ども達に日本文化を紹介するプログラム「Explore Japanese Culture」である。ニューヨーク市政府の公式プログラムとして2007年から行っているこのプログラムは、市から「Volunteer of the Award」を三度も受賞するほどの大きな評価と信頼を獲得した。「日本人ならまず足を踏み入れない地域にまで足を運び、十分な教育を受ける機会のない子ども達に、はるか遠国の日本を紹介して彼らの世界観を広げたい」―――日野さんとボランティアの方々の熱心な思いは、語り尽くせないほど多くの苦労を乗り越えながらも活動を継続させている。
地道に続けてきた活動はメディアにも多く取り上げられるようになり、NYdVには旅行会社からスタディツアーなどの依頼も来るようになった。これまで築いた市や企業、団体、コミュニティとのパイプを生かし、それらのコーディネートを円滑にこなしている。日野さんは、こうした事業一つひとつが団体認知の面でも資金面でもNYdVにとって大切な糧になっていると話していた。
来年で設立10周年を迎え、日野さんがNYdVの活動を通じて成し遂げたい目標も当初から大きく変化してきた。まだ公表段階にはないとのことだが、NYdVの新展開に向けて日々計画を練っている。
NY de VolunteerとCLAIRとのつながり
NY de VolunteerとCLAIRの間にはさまざまな接点がある。まず団体の設立メンバー8人の一人にCLAIRの職員が名を連ねていたこと。JETプログラム経験者がボランティアスタッフとしてNYdVの運営を手伝っていること。そして、数年前からNYdVとJETAAのNY支部がさまざまな活動を共にしてきたことである。東日本大震災後の4月5日には、復興支援のファンドレーズイベントを共催した。立場は異なっても、ともにニューヨークを活動拠点とし日米間の交流促進を進める互いの活動は、同じ方向を向いている。
アメリカの充実したNPO支援体制
NYdVは2002年5月に設立し、2003年1月に法人格を取得した。また同年中にはアメリカ内国歳入庁IRSから、非営利団体として税制上の優遇が受けられる501(C)(3)ステータスを獲得した。
日野さん達はそれまでNPOの設立・運営の経験はなかったが、NPO向けの支援体制が充実しており手厚いサービスを受けられたことが特に運営初期は大きかったという。支援の提供主体は、市、大学、財団、そしてNPOを支援するNPOである中間支援組織など多層化している。
ニューヨーク本部を含め全米に5つの拠点を持つFoundation Center(以下、FC)は、その一つの中間支援組織である。FCの支援メニューは幅広い。NPOスタッフを対象にした講座では、全42種類のトレーニングコースを用意し、例えば「資金調達計画の作り方」「助成金申請の書き方」「財団にどうアプローチするか」など、その内容は多岐かつ実践的である。日野さんは、受けられる講座はほぼ受講してアメリカでのNPO運営の基礎を学んだ。
また、日頃の団体運営においては、市の事業受託と財団からの助成を中心に、現地企業と個人の寄付、企業との事業連携など、団体の支援体制の多様化を図っている。
日米のNPOセクターの相違
日野さんは、日本とアメリカのNPOセクターを比較した際に、大きく異なる点を二つ指摘する。
一つは、人材である。もちろん日本でも優秀かつ意欲ある人間がNPOを設立し、また就職して活躍している。しかしアメリカでは、大学を卒業した若者にとってNPOへの就職が魅力的な選択肢として捉えられ、NPOセクターに流入する有能な人材の絶対数が異なる。それは、セクターが成熟して高い社会的評価を受けていると同時に、職員待遇の面でも民間セクターと比肩しうる水準になっているからである。日野さんが上述の専門プログラムで知り合った女性は5人の正職員を抱えるNPOの事務局長として130,000ドルを超える年収を得ていたというエピソードもそれを裏付けている。
もう一つは、NPOの理事に期待される機能である。日本では形式的立場に置かれがちな理事だが、アメリカでは「資金を調達すべきは理事である」という基本的な理解がある。理事には、資金調達のためのパーティを主催したり、助成財団に出向いたりしながら、知名度と人脈を駆使して活動することが求められている。NYdVも今後の展開を踏まえ、理事の人選をどうしていくかは死活問題であるという。
インタビューを終えて
NYdV運営の苦労話からNPOセクターの日米比較まで様々な話を聞かせていただいた。日本のNPOセクターは、寄付税制改正を受けてまさに今後の発展が期待される。アメリカとは非営利団体の歴史や価値観が異なるため、すぐに同じように成長するのは難しい。しかし、社会課題の解決に多くの市民が参画し、それを周囲が強力に支援するアメリカのNPOセクターの強靭さと風通しの良さには、日本の見習うべき点が多いと感じた。
高安主査 インターンシップ研修生