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簡単なクイズに答えるだけでアメリカ連邦政府の予算概要がわかる??

 8月3日~5日の3日間、NCSL(全米州議会議員連盟)がオンラインでのベースキャンプを開催した※¹。
 セッションの内容は多岐にわたり、コロナ禍における連邦政府や各州のインフラ政策、教育、予算状況、今後の米国経済の動向などが取り上げられた。

 今回の記事では、筆者が参加したセッション、「Responsible Budgeting in the Age of Stimulus(刺激ある時代における責任ある予算編成)」の中で話題に上がった「BUDGETING FOR THE FUTURE(将来のための予算)」というウェブサイトについて紹介する。

※¹NCSLは、アメリカ合衆国50州及び海外領土の各議会や議会事務局職員のための協同組織として1975年1月に設立された団体で、各州議会議員と議会事務局職員によって構成されている。ベースキャンプは、アメリカの様々な政策課題について、各種専門家(大学教授、政策シンクタンク、州議員スタッフ等)をスピーカーに招いてトークセッションを行うというもの。


 連邦制国家であるアメリカでは、合衆国憲法において、特段、地方自治制度に関する規定が置かれていないため、各州や自治体は、自分たちの権限で自治制度を定めている。新型コロナウイルス感染症への対策は、そのことを顕著に表しており、各団体はまるで、同じ国内とは思えないほど、毛色の異なった政策を実行している。

 例えば、「マスク」を例に挙げてみても、マスクの着用が求められている公共の場で、それを遵守しない場合、罰金を科している自治体もあれば、州内の地方政府機関や学校がマスク着用を義務づけることを禁止している州もある。また、「税制度」を例に挙げれば、新型コロナウイルス感染症による税収減等を賄うため、高所得者に対して増税を実施する州もあれば、大麻やスポーツ賭博を合法化し、新たな収入を得ようとしている州もある。

 このような政策の内容はもちろん、これらが実行される社会的背景や、その団体の財政的状況を理解しておくことは大変重要であるが、その過程において、連邦政府がどのように州や自治体と関わっているのか、また、そもそもの連邦政府の思想や予算の枠組みがどうなっているのか、ということも把握しておく必要がある。

 今回紹介する、「BUDGETING FOR THE FUTURE(将来のための予算)」(https://www.futurebudget.org/)は、連邦予算委員会※²が作成し、公表しているものであるが、これは、サイト内の5つのツールを使い、クイズを解いていくことで、連邦政府予算の概要を簡単に学ぶことができるものである。また、各個人の予算に対する思想(方向性)を認識でき、その認識(又は自分が住む団体の政策)が今の連邦政府予算の思想(方向性)と合致しているのかも把握することができるものになっている。

 今回の記事では、このサイトで掲載されている5つのツールのうち、2つに焦点を当て、どのような方法で連邦政府の予算の概要が示されているか説明していく。

※²連邦予算委員会(Committee for a Responsible Federal Budget)とは、ワシントンD.C.に拠点を置く、無党派(non-partisan)かつ非営利(non-profit)の組織である。委員会は、元下院・上院議長、議会予算局(CBO)、行政管理予算局(OMB)、連邦準備制度理事会(FRB)のメンバーを含む、40人の予算専門家で構成されている。客観的な政策分析の独立した情報源として、国の財政および経済状況を改善するための分析、提案を行っている。


〇ツール1:Discover your federal budget personality

 ~自分自身がどのように予算を使用すべきと考えているかを認識する~

 このツールは、24問の質問に対して、「強く賛成する、賛成する、どちらともいえない、反対する、強く反対する」の5つの選択肢の中から、自身の思想に合った回答をしていくことで、
1.支出を抑えるタイプ
2.支出を増やすタイプ
3.世話を焼くタイプ
4.未来思考タイプ
5.人々の喜びを重視するタイプ
6.個人主義タイプ
7.冒険家タイプ
8.ノスタルジストタイプ
のいずれかに分類されるというものである。

 質問は、「多大な連邦債務は経済に打撃を与えると思うか」、「将来への投資は政府の最優先事項であると思うか」、「企業はもっと税金を払うべきだと思うか」、「裕福層からもっと税金を取るべきだと思うか」といったような簡単な内容である。
 回答が終了すると、上記8つのうち、自分がどのタイプであるか示されるとともに、そのタイプが現在の連邦政府の予算(思想)に見合ったものであるか、さらに、自分自身が、どの世代を重視し、どれほど財政への責任感があり、大きな政府・小さな政府のどちらのタイプの考え方に近いかが表示される。

 実際にクイズに答えてみたところ、筆者は「未来志向タイプ」に分類された。加えて、「このタイプは今の連邦政府の予算に、まだ適合していない」という結果が示された。
 当初は、なぜ「まだ、適合していない」なのか。この結果の意図するところがわからなかったが、後述するツールを使用していくことで、その理由を理解することとなった。

(参考:ウェブサイトのクイズ画面)

〇ツール2:Show us how you would you split the budget among the different generation
 ~連邦政府予算が、どの世代に対して優先的に支出されているかを知る~

 2019年における連邦支出のうち、70%(約3.1兆ドル)は、直接個人に支給されているものになるが、このツールは、その額が世代間(高齢者(65歳~)、大人(19~64歳)、子供(0~18歳))でどのように配分されていると思うかを予測し、回答していくというものである。

 先に答えを言ってしまえば、その配分率は、高齢者が52%、大人が35%、子供が13%となっている。年齢別の人口比も異なるため一概には言えないが、子供世代への支出が少ないのが現状である。
 このような配分になる主な要因として、アメリカでは、国全体を通じた保育制度や児童手当がなく※³、多くの定年退職者が、連邦予算の中でも大きなシェアを占め、その額が年々増加している「社会保障やメディケア(高齢者向け医療保険)」のサービスを利用できることが挙げられる。

 さらに、このツールでは、子供に費やされる予算のシェアは現在から2050年には3分の1に減少し、この世代が3つの世代の中で、最も貧困に陥る可能性が高くなると紹介している。先ほど、ツール1にて述べた「未来志向タイプが連邦予算には適合していない」という結果は、まさにこのことを指している。
 つまり、現在の連邦予算は、「将来への投資よりも現在の消費に重点を置いている」と言えるのである。

 このツールでは、以上の事実を知った後、再度、「改めてどの世代に優先順位をつけて予算を配分すべきだと思うか」質問され、この回答を連邦予算委員会に送付できる仕組みになっている。また、既に回答した高齢者、大人、子供の各世代の回答結果を見ることができるだけでなく、これまでの配分割合の推移や子供世代への支出が少ないことによりアメリカの学力が低下しているのではないかという問題提起もされている。

 また、その他3つのツールにおいては、より具体的な高齢者世代と子供世代への支出額の違いや、連邦政府の債務残高、税収入の割合を把握することができるようになっている。
 

 このサイトは主に、各州や自治体の職員、連邦予算に興味ある学生等を念頭に作成されたものであるが、その内容や各テーマの説明は、とてもわかりやすく、予算の分野に知識がない人にとっても、とっつきやすいものになっている。
 何より、自分自身が巻き込まれながら、クイズ感覚で連邦政府の予算の概要を把握できるだけでなく、「具体的に連邦政府はどのような高齢者向け、子供向けの政策をしているのか」、「各政策に関する連邦政府と州政府の関係はどうなっているのか」といったさらなる疑問・関心を誘発し、その答えの参考となりそうな情報も掲載している。

 予算を読み解くことができれば、その団体の社会的背景だけでなく、財政的状況も見えてくるが、予算の説明は一概に難しくなりがちであり、身近に感じづらいものである。

 現在、日本のどの自治体も政策一つ一つに説明責任が求められており、如何に住民にわかりやすく伝えるか、如何に興味・関心を持ってもらうかということも重要になっている。
 考え方を誘導するような説明や、客観的な視点が欠けている説明にならないよう気を付ける必要はあるが、住民に対して、政府や自治体の政策を考える「きっかけ」を提供するという意味では、このサイトの、「誰もが簡単に操作でき、個人の興味・関心を誘発させながら、概要を学んでいく」という流れ(構成)は、とても参考になるように思う。

※³アメリカにおける保育サービスの提供は、教会や非営利団体のほか、民間企業が担っている。また、アメリカでは児童手当制度がなく、扶養者への所得税制(所得控除、税額控除等)によって経済的支援が行われている。
 なお、内閣府が公表している資料によると、アメリカにおける家族関係政府支出(家族を支援するために支出される児童手当や就学助成等の現金給付及び現物給付)の対GDP比は0.68%(2013年)となっている。(日本は1.34%(2014年)、イギリスは3.85%(2013年)、フランスは2.91%(2013年))

(柿本所長補佐 総務省派遣)