新型コロナウイルス感染症がニューヨーク市にもたらした影響の1つとして、道路の利活用が挙げられる。世界的に見てもトップクラスであったニューヨーク市の道路渋滞(※1)は、ロックダウンにより、特にオフィスが建ち並ぶマンハッタンを中心に、一時的にその姿を消すこととなった。空白となった道路スペースに姿を見せたのは、ニューヨーク市のオープンストリートプログラムによる道路の利活用の取組である。
本稿では、
・コロナ禍におけるニューヨーク市の「オープンストリートプログラム」について
・コロナ禍以前の2010年代から取り組まれているニューヨーク市のストリート改革の事例について
・それらの取組の根拠となる基本計画や各種アクションプラン等、今後のストリート改革における展望等について
の3回に分けて紹介することとする。
(オープンストリートプログラムの概要)
① オープン大通り・オープンストリート 自動車の出入りを禁止又は制限し、歩行者や地域コミュニティ活動、イベント活動などのために利活用する取組(2020年5月1日から段階的に実施。2021年6月30日時点で1,607箇所。)。実施日時は場所によって異なるが、オープンストリートであれば、毎日午前8時から午後8時までのものが多い。
② オープンレストラン 屋内での収容人数制限がなされている間の飲食業の営業継続のため、歩道や道路を屋外店舗の敷地として無償で占用許可する取組
③ オープンカルチャー 2021年3月1日から始まった、芸術や文化、エンターテイメント会場としてストリートを利活用する取組(2021年10月31日まで)
これらのオープンストリートプログラムは、2020年5月1日に公園内及びその周辺のストリート合計13箇所、約7マイルを歩行者やサイクリストが十分に社会的距離を取って通行・ウォーキング等をできるようにするためにオープンしたのを皮切りに、順次拡大を続けている。2021年5月13日には、オープンストリートをニューヨーク市の都市景観の恒久的な一部にするための法案(2021年法律番号第55号)(参考:ニューヨーク市議会HP)が議決され、オープンストリートはコロナ禍における一過性の取組ではなく継続的な取組となった。ニューヨーク市では、コロナ禍以前からストリートを人々の公共空間として利活用する取組を実施しており、今回のオープンストリートプログラムもその一連の流れを汲んだ取組と言える。
一方で、ワクチン接種が進むニューヨーク市では経済活動が順次再開されており、コロナ禍以前の状況に人々の生活が戻っていくとすれば、オープンストリートプログラムの継続により、必然的に自動車が通行できる道路が減ることから、ニューヨークの道路渋滞に拍車をかけてしまう懸念がある。この道路渋滞問題に対しては、公共空間としての利活用と並行して、自動車社会からの脱却を目指す取組を実施している。コロナ禍においても、道路渋滞の空白期間を利用して公共交通・自転車等の利用促進のための交通インフラ整備を加速化させる動き(※2)がみられた。
次回の記事では、2010年代からニューヨーク市で実施されているストリートを公共空間として利活用する取組と自動車社会からの転換を図る取組の具体例を紹介することにする。
(※1)交通情報とドライビングサービスの国際的なプロバイダーであるINRIXの調査結果によると、コロナ前である2019年交通渋滞による時間損失量調査において、ニューヨーク市は米国内第4位であり、2020年度の同調査においては、新型コロナウイルス感染症の影響により数値としては減少しているものの、世界第3位、全米第1位の時間損失量となっている(参考:INRIXのHP)。
(※2)2020年のコロナ禍において新設された自転車専用レーン28マイルとバス専用レーン16.3マイルは、いずれもニューヨーク市における過去最高の記録を更新した(参考:ニューヨーク市報道資料)。また、2021年は新たに自転車専用レーン30マイルとバス専用レーン28マイルを設置し、前年の記録をさらに更新させると報道発表した(参考:ニューヨーク市報道資料)。