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CAMA(カナダ自治体管理者協議会)のウェビナーシリーズに参加

 カナダ自治体管理者協議会(CAMA:Canadian Association of Municipal Administrators)は、カナダ国内全ての自治体を対象とし、シティマネージャー、主席任命執行官(CAO/Chief Administrative Officer)、およびCAO直属のシニアマネージャーなどが所属する全国規模の非営利団体であり、現在約650名の会員を持つ。

 今回でちょうど50年目を迎えるCAMA年次総会は、2021年6月1日から3日にモン・トレンブラン(カナダ)にて予定されていたが、新型コロナウイルスの影響により対面での開催は中止を余儀なくされた。一方、今年1月からは1年を通したウェビナーシリーズやネットワーキングが実施されている。自治体関係者だけでなく、CAMAパートナー企業(Microsoft、RSM、Flash Vote、Calix、DataVisual、VORTEX)もホストとして登壇し、社会問題に対する自治体の対応策から、自治体経営に関連するサービスや製品の紹介まで、様々なテーマで有益な機会を提供している。セッションはニューヨークやワシントンD.C.などが含まれる東部標準時(EST)を基準に開催され、CAMAメンバーではなくとも視聴できるものが多く、参加のハードルの低い開かれたウェビナーとなっている。また、多くのセッションでQ&Aの時間が設けられており、視聴者がチャットもしくは音声で直接スピーカーに質問を投げかけることができる。セッションによっては終了後もアーカイブとしてHPで一定期間配信されるものもあり、リアルタイムでなくとも世界中から視聴可能である。本稿では、参加したセッションのうち、下記2つをご紹介する。

1.フレデリクトン市の資産管理戦略

 このセッションのスピーカーの1人であるAlicia Keating氏は、2006年に公認会計士の資格を取得し、2007年からフレデリクトン市に勤めている財務担当者である。今回は、同市の資産管理の成功例について紹介された。

 フレデリクトン市は、1973年に大規模な合併が行われた後、長年にわたりインフラサービスに注力してきた。そのために多額の負債を抱え、1990年代は財政抑制の時代であった。負債の返済に伴い、「Pay As You Go(※1)」に基づき、市の保有する財源だけでインフラ管理を行ったため、新たな負債の発生を抑えることには成功したが、大規模なメンテナンス等を行わなかったため老朽化が進み、新しいインフラに対する需要が高まった。そこで2007年、担当課だけではなく全ての部署、コンサルタントと協力しながら保有する資産の棚卸を行った。具体的には、下記の手順で進めたという。

① 保有する資産を項目別に分類

② 故障のリスク、公共へのリスクを判断

③ 維持費の計算

④ 優先順位付けしリストを作成

 このリストを基に、既存のインフラに持続的かつ安定的に投資するために、必要な資金をどのように調達するかを検討した。結果、当初この計画を立てた時には、何も手を加えなければインフラの赤字が大幅に拡大していくということが発覚したため、赤字を防ぐために長期財務計画が策定された。

(※1)新しい歳出や減税を行う場合には、別の歳出削減や増税での財源確保を義務づけ、収支のバランスを取るルールのこと。

(1)長期財務計画(LTFP:Long-term Financial Plan)

 長期財務計画では、ベースラインとなる先述したリストを基に、20年間の予測を行い、必要な資金をどのように調達するかを考える。新たな負債戦略も導入し、新規開発だけではなく既存のインフラの再生に焦点を当てた目標設定を行った。予算の75%はインフラの更新費用として、10%は新規投資に割り当てているが、新規投資には既存のインフラの強化も含まれる(古い道路に新しい縁石を追加した場合など)。

 2011年に入り、ビル施設の積極的なメンテナンス戦略を開始。10年間で毎年5万ドルずつ修理・メンテナンス予算を増やし、適切な予防的メンテナンスを行った。また、エネルギー効率化に対しても投資を行い、2020年には約47万5,000ドルの節約に成功した。これは、投資を開始した当初と比べて24%の節約に相当する。

 2013年には上下水道の長期財政計画を採択した。フレデリクトン市では2000年までは上下水道設備の大規模なメンテナンスプロジェクトを行っておらず、拡張をメインに行っていたため、他の分野よりも大きな赤字を抱えていた。そこで、利用者にショックを与えないように、計画的に少しずつ固定料金を値上げしていくことで収入を確保した。ここでは、ただ単に値上げするだけではなく、使用者の持続年数や消費量に応じて値上げ金額を毎年検討することも大切であると述べられた。また、全てのインフラに対してメンテナンスが最適化されるように、道路公団と連携を図りながら進めたという。

 長期財務計画を策定するにあたり、複数の部署が連携しデータを一括で管理していたことが大事なポイントであったとAlicia氏は述べる。他部署のニーズを把握することができたと同時に、複数の観点から判断を下せることで、市全体にとってより良い計画策定に繋がったとのことだ。

(2)他自治体との連携

 2015年、フレデリクトン市はFCM(カナダ地方自治体連盟)の資産管理におけるリーダーシッププログラムに選ばれ、他の11の自治体とともに知識の共有や各自治体が持つ様々なアプローチを用いた資産管理戦略のベストプラクティスを検討した。

 2017年には、FCM国際プログラム「Building Inclusive Green Municipalities (BIGM)」に参加。グローバルアフェアーズカナダからの資産提供を受け、南アフリカ地方自治協会(SALGA)や、南アフリカのポート・セント・ジョンズおよびバッファロー・シティ都市圏自治体と連携し、気候変動の影響を考慮した資産管理の理解を深めた。

 このように、他自治体とのパートナーシップを結んだことは、お互いに学び合う素晴らしい機会であったと同時に、どの自治体に対してもフレデリクトン市のアプローチが有効であることを確認できたとのことであった。

(3)資産管理のメリット

 また、資産管理に重点を置くメリットとして、経済面、社会面、環境面に分けてAlicia氏は下記のように述べた。

【経済面】

・維持コストが削減されることで、優先事項への投資が増える。

・優れた財務・資産管理は雪だるま式に効果を発揮し、適切な時期に適切な選択をすることができる。

・優れたインフラは経済的活力をもたらす。

【社会面】

・質の高い建築環境は、生活の質の向上につながる。

・整備された道路、スポーツ施設、文化施設、綺麗な水があることで市民からの苦情が少なくなる。

【環境面】

・エネルギー消費量、温室効果ガスの排出量を削減できる。

・気候変動への対応と備えの強化ができる。

 最後に、「海を沸騰させようとする必要はない」という言葉にもあるように、小さなことから少しずつ始めていくことが大事であり、資産管理は難しいことではないが、努力と時間と関係機関とのコミットメントが必要であることを述べ、セッションを締めくくった。

2.テクノロジーによる自治体の近代化

 世界的なパンデミックによって、企業だけでなく自治体もリモートワークの必要性が生じた。しかし、従来からどのように方法を変え、パンデミック下における自治体業務を遂行していくべきなのか。自治体の近代化の一例として、PSD Citywideのゼネラル・マネージャーであるJohn Murray氏から、テクノロジーを活用した資産管理業務について紹介された。

 自治体のインフラは、多くのサービスを提供する、言わずもがな必要不可欠な存在である。道路や橋は交通サービスを、配管や処理施設は上下水道サービスを、施設や公園はレクリエーションサービスを提供している。これらは当たり前のことだと思われがちだが、常に自治体が整備・維持・管理していかねばならない。そのためには、下記のグラフのとおり、設置後劣化していく資産を良好に保つための作業を行う必要がある。

 そこで、自宅からリモートで仕事をしながらこれらの作業を継続していくにはどのようにすればよいのだろうか?John氏は、マネジメントの観点から変化が必要な点として、下記4つを述べた。

(1)人々

 マネージャーや管理スタッフはリモートワークを行い、メンテナンス担当者はオフィスに出向かず直接現場で作業を行うことになる。資産計画に関する会議もバーチャルで行われる。

(2)信頼

 適切なワークプロセスやコミュニケーションをとり、職員がリモートで行っている仕事を上司が信頼できるようにする。上司は部下に何をすべきかを示し、職員の結果やKPI(重要業績評価指標)を追跡していくことが新しいマネジメントの在り方である。

(3)コミュニケーション

 リモートでもコミュニケーションが円滑に行われるように適切なツール(ウェブ会議、ITシステム)を導入する。ビジネスのやり方に合わせてITシステムをカスタマイズし、適切なワークプロセスを構築することが重要となる。

(4)プロセス

 一口に資産管理業務とは言っても、そこには運用・保守担当者、エンジニア、資金計画担当者、財務担当者が関与している。様々なグループが適切にデータを共有することで、適切な判断が下せるようにする必要がある。また、多くの自治体がデータを豊富に持っているが、そのデータを最終的に知識や意思決定に役立つ情報に変えることができるかどうかが鍵となる。資産管理においては、資産のコンディションデータが非常に重要であり、不足しているデータを埋めていかねばならない。そしてそのデータをデータベースに保存した後の管理が適切に行われ、データの有効性と正確性を維持しておく必要がある。

 これらを踏まえ、John氏は自治体の集合住宅、施設等の工事を例に挙げ、パンデミック下のテクノロジーを活用した業務の進め方について下記のように説明した。

 【工事の流れ】

(1)申請書の提出

(2)申請書のレビューと承認

(3)許可証の発行

(4)検査の管理

(5)入居許可

 自治体職員は家で仕事をしていても、申請書が送られてきたことをITシステムで確認し、自宅で承認し、許可証を発行して作業を開始することができる。また、複雑な許可を得るために検査が必要な場合は、検査員が同じシステムを見て、毎日、毎週の作業の中で必要な検査リストを入手し、検査を進め、進捗を報告し、最終的には同じ電子システムの中で全体のワークフローとコミュニケーションシステムを構築する。

 また、モバイルアプリケーションやテクノロジーを利用し、監督スタッフは作業員の作業をスケジューリングし、進捗状況を明確に把握することができる。現場スタッフはそれを見て、自分や自分のクルーに関連するものだけを検索することができる。

 さらに、集中コールセンターがあり、市民や議会からの電話を受け、サービスリクエストをカテゴリー別にITシステムに入力する。同じシステムの中で、各部門が割り当てられたサービスリクエストをもとに作業を開始。メンテナンス事業の実施にあたっては、公共の意見を取り入れた計画を立て、システムに入力する。現場スタッフは、このシステムを見るだけで上司からその日に行うべき検査や作業の明確な指示を受けているのである。使用する機器や材料の価格、所要時間もシステムで把握し、すぐに作業を開始することができる。実際の作業後に、使用した材料の量やかかった時間を入力し、上司に報告となる。つまり、完全な活動ベースの原価計算をリアルタイムで行うことができるようになったのである。

 管理者は、作業の原価計算を見て、オペレーションとメンテナンスの予算についてどのくらいのコストがかかっているかを知ることができると同時に、適切な場所で適切な作業がなされているか、適切な場所に適切な予算があるかを長期的に振り返ることができる。また、現場で起きている事象のパターンや傾向はどうなのか、プログラムの管理レビューを行い、業務を進めていく。これらはすべて、強力なプロセス、強力なITシステムの中のワークフローから生まれ、ワークフォース・マネジメント(※2)にもつながる。

 しかし、現在の資産の状態を把握していなければ、このようなプロセスにたどり着けない。したがって、全ての資産について状態の評価を行うことは必要不可欠である。業界基準の評価手法は数多くあるが、時間や費用をかければ非常に詳細な情報を得ることができる。

 このように、近代化によってすべてが合理化され、パンデミックの際にもシームレスに継続されるだけでなく、業務運営やメンテナンスを行う上で、従来の方法よりもはるかに効率的であることが窺える。新型コロナウイルスによって多くの活動は制限されたが、このような状況だからこそ、テクノロジーによる業務のやり方を考えていくべきだと述べられた。

(※2)サービス品質を下げることなく人員を適正に配置することで、サービス品質と人件費抑制を両立させるマネジメントの考え方。

(神笠所長補佐 呉市派遣)