ニューヨーク市には何でもあります。好きなものを買ったり、飲んだり、食べたりと、何でも手に入れることができる便利で魅力的な街です。しかし、便利であるが故に、突然買い物ができなくなってしまった場合はどうすればいいかを、日頃から考えて生活している人は少ないのではないでしょうか。
同市はハリケーン・サンディを教訓に、緊急の場合に備えた救援物資の配布制度の改善策を策定、実施しています。救援物資配布の制度は、連邦及びニューヨーク州レベルでは「Point of Distribution或いは、医薬品の場合、Point of Dispensing (POD)」(配布拠点)と呼ばれています。同市ではこれを「Commodity Distribution Point (CDP)」(物品配布拠点)と名付けて、区別しました。
もちろん以前から救援物資を配布する制度は存在し、小規模な物資配布は過去何回も行われてきました。しかし、ハリケーン・サンディのような広域に渡って多数の人が巻き込まれる災害においては、迅速に対応することが極めて困難でした。何日経っても、飲料水や食料品が手に入らなく、個人や教会などの民間の取り組みによって凌いだケースが多かったようです。また、配布制度が立ち上がっても混乱が起こったり、被害を受けた地域に設立されなかったりするなど、さまざまな問題がありました。
命を支える最小限の物資は、水・食べ物・薬品の保存に使う氷・乳児用のミルクの四点だと考えられています。CDPでは少なくともこの四点を配布する予定です。しかし、私の経験上、実際にはこれ以上の物資が配布されることとなるでしょう。ハリケーン・サンディの際には、飲料水や食料品のほかにペーパータオル・掃除道具・ティッシュ・石鹸・電池・衣服・木炭とバーベキューグリル等も配られました。
ハリケーン・サンディの際、すぐ食べられる食料品として、MRE(Meals Ready to Eat)という米軍の携帯食が約2、3週間配られました。しかし、一般人にはカロリーが多すぎ、またアレルギーや食事の宗教的な制限があるため食べられないなどの苦情が多く寄せられました。そのため同市は再検討し、MREを配布するのは2、3日だけとし、それ以降はきちんと調理された食べ物を提供するという方針へと変更しました。
現在、緊急事態管理室(OEM / Office of Emergency Management)と公園局(Department of Parks & Recreation)は、64箇所をCDPのロケーションの第一候補として設定し、さらに第二候補の調査を行っています。大部分は公園のため、公園局がCDPのイニシアチブをとり、教育局(Department of Education)や福祉局(Human Resources Administration / Department of Social Services)等が協力します。OEMは引き続き調整役を務めるとともに、ロジスティックスも担当しています。OEMは自ら指揮をするよりも、適切な部局が直接問題解決に取り組み、OEMは各部局の調整や情報の収集・提供などいろいろな形で活動をサポートすることが一般的です。
連邦危機管理庁(FEMA)の計算によると、CDPを64箇所設立すると約4,000人のスタッフが必要になります。もちろん、市の職員だけでまかなう事はほとんど不可能で、ボランティアも必要です。そのため、OEMが継続してCDPのトレーニングを実施しています。サイトのセットアップ、物資の管理や配布方法、集団制御等をコミュニティ緊急事態対応チーム(Community Emergency Response Teams)や赤十字等のボランティアに教え、万一全てのCDPを設立しないといけない場合でもスタッフが不足することのないよう努めています。
CDPは拡張可能な制度であり、災害の場所が限定されている場合は、一箇所だけ立ち上げることも可能です。そして、食料品等の配達システムがダウンした際にはCDPを通して配布することができます。ただ、人災及び天災であっても、お店などが開いている場合は、その地域にCDPは立ち上げません。無料で物を配ってしまうと商売に支障を来たすからです。
CDPのトレーニングにおいて、もう一つの課題が挙げられました。それは、ガソリンが手に入らなくなる問題です。ハリケーン・サンディが去ってから2、3週間は、ガソリンを手に入れることが大変困難となりました。ボランティアは言うまでもなく、医師・消防士・警官でさえも、一般市民と同じようにガソリンを探し回ったり、我慢しなければなりませんでした。災害時は停電のためポンプが稼動せず、また電気が復旧した後も供給システムの不具合が生じたこと等により、ガソリンの供給が遅れました。これを教訓に、ニューヨーク州政府は、ガソリンスタンドに自家発電機を備えることを義務付ける法律を制定しました。その上で、供給制度の耐久性・維持性を強化する手法の実施も義務付けました。しかし、緊急事態の対応に参加している人への特別措置は盛り込まれていないようです。
緊急事態に対して完璧に対応することは不可能です。しかし、毎回問題点を冷静に分析し、反省したうえで、改善させていくことは重要です。同市は、ハリケーン・サンディをきっかけに、改めて緊急物資の配布制度などを見直し、かつ、強化することで、次の災害に備えています。
Matthew Gillam
2014年12月