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デトロイト市の破産申請で注目される公務員の年金債務問題に関するセミナーについて

12月3日、連邦破産裁判所のローズ判事は、連邦破産法に基づく破産申請を行っていたミシガン州デトロイト市に対して、同法の適用を認める判決を下しました。判決の中では、焦点となっていた同市の公務員への年金の削減について、それを明示的に禁止しているミシガン州憲法の規定にかかわらず、連邦破産法が州憲法に優先し、公務員の年金債務も、市が抱える他の債務と同様に、削減が可能との見解が示されました。一方、デトロイト市の破産法申請に反対していた労働組合や年金基金などは、この判決を不満とし、上訴する構えを見せており、今後も、デトロイト市の年金債務の削減をめぐる法廷闘争が続く見込みです。

このように、デトロイト市の破産申請を機に、全米各地の地方政府が抱える年金債務の問題が大きな注目を集めている中で、10月24日に、マンハッタン研究所において、この問題に関するセミナーが開催されましたので、その概要を報告します。

このセミナーでは、二つのパネルディスカッションと二つの基調講演が行われました。一つ目のパネルディスカッションでは、各地方政府の抱える年金債務が地方財政に与えている影響について、議論が行われました。年金債務が地方財政にとって大きな重荷となっているのみならず、年金債務の支払いが増加することによって、住民サービスに回せる財源が減少しており、年金債務が住民サービスを「クラウディングアウト」しているとの議論です。

パネリストの一人は、「もし地方政府が公務員退職者に将来支払うべき年金債務について、事前に適正な積立てを行うとすれば、例えばシカゴ市では固定資産税を2015年までに2倍に引き上げる必要がある。しかし、実際には、多くの地方政府は、将来支払うべき年金債務の事前積立てを行っておらず、年金債務が既に財政的に持続困難なレベルを超えていることを、きちんと住民に示していない。」と指摘しました。

別のパネリストは、「地方政府が年金債務や退職後の医療給付に対する事前積立てを行っていないことによって、近い将来、より深刻な事態に陥るであろう。仮に年金債務の事前積立てが行われているケースでも、退職後医療給付に対する事前積立ては行われていないと考えられ、例えばニューヨーク州では、退職後医療給付の現在価値が約2.5億ドルにも上るが、近年の退職後医療給付の急速な伸びは、近い将来、退職後医療給付が基本的な住民サービスの提供への足かせになることを示している。」と指摘しました。

セミナーの最後に講演をしたカリフォルニア州サンノゼ市のリード市長によれば、カリフォルニア州では、州の憲法によって、公務員が就職した後は、今後働く期間(将来期間)も含めて、年金の支払い条件の引下げが禁止され、公務員の年金が厳格に保護されていますが、リード市長をはじめ、年金債務の増大に苦しんでいる市長たちが連携して、公務員の将来期間については、年金の支払い条件を引き下げることを可能とする憲法改正を、2014年11月の住民投票にかけるべく運動しているとのことでした。

リード市長によれば、この憲法改正によって、既に公務員が働いてきた期間(過去期間)はともかく、これから働く将来期間については、年金の支払い条件を、市の財政状況に見合ったものにすることによって、年金債務の増大をある程度コントロールできるようになることが期待されるとのことですが、上述のデトロイト市の破産申請に関する判決が、今後のリード市長たちの運動に影響を与える可能性も考えられ、今後の展開が注目されます。

なお、セミナーの模様については、以下のウェブサイトからご覧になることができます。http://www.publicsectorinc.org/2013/10/saveourcities/

上席調査役 犬丸

上席調査員 Seth Benjamin