2021年7月にメリーランド州ナショナルハーバーで開催された全米カウンティ協議会(NACo:National Association of Counties)(※1)の年次総会に参加した。NACoは、米国にある3,069のカウンティのうち、およそ82%が加盟する組織である(2021年10月現在) 。総会では毎回カウンティを近代化し改善させた取組を表彰するイベントが行われており、青少年支援部門、カウンティ管理部門、情報技術部門など18の部門ごとに最も優れた取組が選ばれている。今回はその中からコミュニティ&経済開発部門で表彰されたニューヨーク州のエリーカウンティ(Erie County)が行っている地元農家を支援するためのプログラム「Erie Grown」の取組を紹介する。
1 「Erie Grown」とは
エリーカウンティは、五大湖に面したニューヨーク州の北西部に位置しており、州内でニューヨーク市に次ぐ第二の都市バッファロー市を擁している。カウンティ全体の人口はおよそ90万人で、農業経営者はおよそ940おり、そのうち90%が家族経営を行っている。
農業とその関連産業のGDPが1兆ドル(※2)に達し、およそ200万の農家を抱えるアメリカでは、農業は正に国の経済を支える重要な産業の一つとなっている。今回のパンデミックは、農産物を含むアメリカのサプライチェーンに大きな打撃を与えており、国レベルでは前トランプ政権やその後のバイデン政権が農家に対する大規模な経済的支援策を打ち出している。
エリーカウンティ農業局(Erie County Office of Agriculture)は、経済的な被害を受けている農家を支援するため、地域住民に地元産農産物の購入を促すためのプログラム「Erie Grown」を2020年に開始した。ウェブサイト上でおよそ145の生産者を紹介するとともに、「Locator Map」を使って特定の住所における近隣の生産者を検索できるようしている。また「Produce Finder」を使うと特定の野菜や果物を検索して、最寄りの直売所を見つけることができる。いずれのツールからも生産者の住所、電話番号、メールアドレス、ウェブサイトといった情報を入手でき、消費者と生産者が直接つながることができるようになっている。
事業の計画段階では、より小規模なウェブサイトの構築が予定されていた。しかし、コロナウイルスの影響により経済的に困難な状況にある地元の農家を救うため、当初の案を拡大し、カウンティ政府の情報支援サービス部と地理情報システム部の協力の下、現在のウェブサイトが立ち上げられた。
2 「Erie Grown Passport」で利用者数を促進
このプログラムでは、より多くの生産者や直売所を訪問した人に農業関連のギフトが贈られるイベント「Erie Grown Passport」も行っている。参加者は、対象となっている生産者や直売所を最低5か所以上訪問し、訪問日など必要な情報をパスポートに記入して申請する。パスポートはErie Grownのウェブサイトで入手でき、郵送又はオンラインで応募できる。
このパスポートの取組によって、ウェブサイトへのアクセス、地元の生産者や直売所への訪問のきっかけになることが期待されている。また、参加者はより多くの生産者等から農産物を購入し、それをソーシャルメディア上に投稿することが推奨されている。
2020年は農場と農業関連法人11か所を訪れたカウンティ内の町に住む女性が最も多くの生産者を訪問したとして1位に輝き、記念ギフトが贈呈された。また2位と3位の受賞者には、メープルシロップ1クォート(約0.95リットル)とともに、カウンティ内の農場で使用できる20ドルのギフトカードが贈られた。2021年も3月15日から12月15日の期間を対象に開催されている。
エリーカウンティのマーク・ポロンカーズ行政長官は「我々が農業分野を支援するに当たり最も効果的な方法は、地元の農産物を購入することである。それは農家や農業従事者、その家族を支援するだけでなく、地元経済の強化にもつながる。皆さんには、このErie Grown Passportを使って、馴染みのある農場や農場関連のビジネスを紹介したり、これまで訪れたことのない生産者を探したりしてほしい。これはコミュニティ全体でエリーカウンティの生産者を支えることができる素晴らしい方法である。」と述べている。このエリーカウンティの取組は独自のウェブサイトを持たず、ソーシャルメディアに疎い小規模農家にとって、地元消費者とのつながりをさらに深めるための格好のツールとなりえるだろう。コロナ禍で苦しむ地元農家を救う切り札となることが期待されている。
※1 カウンティとは、州政府の下位機関として政策・事業・役務を執行するために設置された地方統治単位であり、日本語で「郡」と訳されることが多い。州政府の出先機関として裁判所や道路建設維持管理などの業務を担うほか、独立した政府として自治体同様に病院・空港・環境保護など幅広い業務を行っており、実際のところ日本の地理的区分としての「郡」よりも「県」の方が意味合いとして近いと考えられる。
※2 2019年における日本の農業・食料関連産業のGDPは53兆8,174億円(約4,844億ドル)。