コンテンツへスキップ

ニューヨーク州のコロナウィルスマイクロクラスター対策

マイクロクラスター対策の概要

ニューヨーク州のクオモ知事が10月17日に新しいコロナウィルスのマイクロクラスター対策(Micro-Cluster Strategy)を発表しました。同対策は、10月6日に発表したクラスター対策事業(Micro-Cluster Initiative)に基づき、公衆衛生や疫病の専門家の協力を得て策定されました。知事室と州保健局が主役です。

知事室によるとマイクロクラスター対策は三つの原則に基づいています:

  1. 細かい区域単位での把握(Refined detection)
  2. 区域を特定し、かつ状況に応じて調整された抑え込み対策(Specific and calibrated mitigation)
  3. 集中的な規制の実施(Focused enforcement)

また、5つのプロセスが含まれています:

  1. 検査・入院・感染等のデータの監視
  2. 1によって、感染拡大が懸念される区域の指定
  3. ウィルスの抑え込み対策の実施
  4. 各区域のデータの評価を踏まえ、区域内で感染が減少し、また、隣接区域に拡大していないことの確認
  5. ウィルスの拡大または減少状況による規制の変更

同対策の実施にあたり、以下の要因を考慮します:

  1. ゾーンの指定(Designated Geographic Area):既存の区域(ZIP Code・選挙区・市町村区・国勢調査区域等)をそのまま用いるのではなく、これらの区域単位で収集されるデータを分析し、規制対象となるゾーンはブロック(街区)単位で指定します。そのゾーンを含むカウンティの人口によって指定の条件と取り扱いが異なります。患者の住所も利用するようです。大まかにいうと、人口が多ければ多い程指定の基準が厳しくなります。
  2. 陽性率(Positivity rate):7日間平均の値の10日間の推移(A rolling 7 day average over 10 days)。
  3. 新規感染者数(New cases):人口10万人に対する件数。

 

これと併せ、当該ゾーンの含まれる市町村区などの区域における新規感染者の状況、あるいは特定可能なグループ(老人ホーム・工場など)以外の集団感染者の有無も規制のレベルの決定の要因になります。

上述の要因に基づき指定されるゾーンは3種類があります。「」(クラスター中心地)は一番感染拡大の状況がひどく、規制が厳しいゾーンです。「オレンジ」(警戒)と「黄色」(要注意)は二つの役割があります。一つは、赤のゾーンの周りにオレンジまたは黄色のゾーンがバッファーとして設定されます(場合によって、赤と黄色、あるいは人口密度の高いところに赤・オレンジ・黄色を同中心に)。あるいは、赤のゾーンがなくても、要注意とされた地域は、その感染拡大の程度によって黄色またはオレンジが指定され、監視・モニタリングや規制が実施されます。指定後14日間のデータを評価し、規制の緩和、ゾーンの指定範囲の調整、あるいはゾーンの廃止を決定します。

一つの懸念材料は、あるゾーンを指定し、規制を実施すると、住民が別な地域に行って行動し、ウィルス感染がさらに拡大する危険性があることです。5月にクオモ知事がニューヨーク州の経済再開計画を発表したときにこの点がかなり議論されました。これを防ぐために、経済再開の際にはカウンティや市町村単位ではなく、もっと広い地方(Region)単位で設定されました(ご参考までhttps:https://www.jlgc.org/ja/2020/06/ )。明確ではないけれど、オレンジと黄色のバッファーを設定するのは、それを防ぐ役割も期待されていると言えるでしょう。


ブルックリンのマイクロクラスター発生地域 (ニューヨーク州知事室提供)

指定・実施・変更の基準

具体的な基準と区分けは以下の「指定」・「規制」・「緩和または解除」の表に示すとおりです。

指定

特定の地域において新規感染者・陽性率・入院者数等の増加が見られると、その地域において集中的に検査を実施してデータを分析し、その結果を踏まえ、対策の必要なゾーンを指定します。

マイクロクラスター対策対象ゾーンの指定基準

区分 要件 黄色 オレンジ
陽性率 新規感染者数 陽性率 新規感染者数 陽性率 新規感染者数
Tier1 人口90万人以上のカウンティ又は9万人以上の都市内の地域 2.5% 10 3% 10 4% 10
Tier2 人口15万人以上のカウンティ内の地域(Tier1に該当するものを除く) 3% 12 4% 15 5% 12
Tier3 人口5万人以上のカウンティ内の地域 3.5% 15 4.5% 15 5.5% 15
Tier4 人口5万人未満のカウンティ内の地域 4% 15 5% 15 6% 15

その他の考慮事項

  1. ゾーンの中に存在する既存の1万人以上の人口の区域(ZIP Code・選挙区・市町村区・国勢調査区域等)の場合、新規感染者数が最低一日5名、一万人以下の場合最低3名。
  2. 新規感染者数の大半が特定できるクラスター(工場、老人ホーム等)ではなく、感染経路不明瞭。
  3. 州と地方自治体の保健局の当局者が考慮すべきと考える要因(例:入院患者数の増加傾向など)

対策の実施

ゾーンを指定した上で、適切な対策を実施します。

州の対策とゾーンの活動制限・規制

  

活動の種類 黄色 オレンジ
宗教関係 最大収容人数の50%まで 最大収容人数の33%あるいは最多25名まで 最大収容人数の25%あるいは最多10名まで
大集会 最多25名:室内室外とも 最多10名室内室外とも 禁止
事業者 開店できる 感染リスクの高いお店は閉店 (美容フィットネス等) エッセンシャルビジネスのみ
レストラン 室内・室外とも:一台のテーブルは4名まで 室外のみ:一台のテーブルは4名まで 出前・持ち帰りのみ
学校 開いているが、学生とスタッフの20%を毎週検査することを義務化 閉校:オンラインのみ 閉校:オンラインのみ

三種類のゾーン(黄色・オレンジ・赤)が指定されると、州は状況に合わせた適切な対策を実施します:

  1. 検査の増加
  2. より厳しい規制の実施と市民の理解を得るための取組み
  3. 州の当局者による、地方自治体の広報啓発活動及び感染抑え込みの支援
  4. 接触者追跡・コンタクトトレーシングの増加
  5. 必要に応じて、広報啓発活動の増加

指定の緩和または解除

対象地域の感染者数などの減少に応じて、適切にゾーンの範囲を調整したり、種類を緩和または解除したりします。

マイクロクラスター対策のゾーンの規制の緩和または解除の基準

  

区分 解除 オレンジ→黄色 赤→オレンジ
陽性率 陽性率 陽性率
Tier1 <1.5% <2% <3%
Tier2, 3, 4 <2% <3% <4%

どの区分であっても、規制の緩和または解除の条件として、陽性率は7日間平均の値が10日間減少傾向であることに加え、最後の三日間の値が連続で目標基準以下でなければならないとされています。

その他の考慮事項
州と地方自治体の公衆衛生の当局者がさらに考慮する要因:

  1. 入院患者数の傾向
  2. 新規患者が特定できる集団感染で、感染経路不明瞭ではないこと
  3. 地方自治体によるより厳しい規制の実施と市民の理解があること
  4. 地域の住民の協力があること

10月中旬現在、ニューヨーク市内に三か所と「アップステート(州北部)」にさらに数か所のクラスターがありました。月末までにある程度鎮静化し、赤のゾーンが解除されましたが、オレンジと黄色が残っています。しかし、州全体としては、新規感染者数・陽性率・入院患者数・致死数などが増加しています。集団感染というよりも、感染経路不明の「Community spread(コミュニティ感染)」です。懸念材料は残念ながら多く残っています。

知事室によるマイクロクラスター対策の詳しい説明はこちら

Matthew Gillam
上級調査員
2020年11月16日