ニューヨーク市は公共の水上交通機関としてフェリーを運航しています。2019年の調査では、このフェリーの利用者の86%はニューヨーク市民です。また、全利用者のうち4割以上が通勤の足として利用しています。
私も通勤にNYC Ferryを利用しています。出勤時には朝のさわやかな風を、退勤時にはマンハッタンの摩天楼を楽しむことができ、通勤時間が良いリフレッシュの時間にもなっています。
周囲を川に囲まれたマンハッタン島は、20世紀初頭まで船が主要な交流手段でした。しかし1920年代の世界恐慌やその後の大規模なインフラ整備により多くの橋・道路が建設されたことから、一時フェリーの航路は激減します。
ところが近年、ウォーターフロントの再開発や災害時の公共交通機関の代替可能性等の観点から、改めてその利便性が見直されることとなりました。2011年、市議会からの要望によりニューヨーク市は試験的にイーストリバーでフェリーの運航を開始しました。
試験運行後にニューヨーク市経済開発会社(New York City Economic Development Corporation 、以下NYCEDC)が作成した2013年のレポートでは、フェリーが移動時間の短縮、移動の快適性、信頼性、アクセシビリティの向上などといったメリットを提供したと報告されています。また、クイーンズ区とブルックリン区では、フェリーの発着場から1/8マイル(約200メートル)以内の地価がそれよりも遠いエリアの地価と比べて8%上昇したとも述べています。さらに同レポートは、ブルックリンやクイーンズ区のウォーターフロントの急速な発展から、フェリーの潜在的な乗客はさらに増えると予想しました。
この予想は的中し、2011年の試験運転時からフェリーは着々と乗客数を増やしています。
そのためNYCEDCは2018年から2019年にかけて、新規ルートおよび船の発着場を検討するための調査を行いました。
検討の手法として、まずニューヨーク市の5つの区の区長や近隣住民の声を聴き、新たな発着場の候補を35か所ピックアップしました。次に、35の発着場候補のうち、水深や橋の高さなどのために航路上フェリーの運航が難しい9か所を除いて、29か所の候補地に絞ります。
さらに、
といった項目で調査し、潜在的な乗船需要がある11か所が最終的に新たな乗船場の候補になると報告しています。
また、それらを結ぶルートについて、
といった項目で検討を行っています。
こうした調査の結果から、2021年には、西側のミッドタウンウェストとスタテンアイランドを結ぶ航路と、マンハッタン島の南端ウォールストリートとブルックリンのコーニーアイランドをつなぐ航路の2つが増える予定です。
一方でフェリーには多額の市の補助金が使われていることが批判を呼んでいます。2019年6月末時点で、ニューヨーク市内を走る地下鉄の乗客一人あたりに必要な市の補助金は1.05ドルであるのに対し、フェリーでは乗船客一人あたり9.34ドルもの補助金を必要としています。フェリーも地下鉄も、乗客は一回2.75ドルで利用することができますが、フェリーの運航には多額の固定費がかかり乗船者数も限られるため、必要な補助金額を押し上げています。
コロナ禍で市の財政がひっ迫する中、補助金を使って更に路線を拡大することについては課題があるものの、個人的には快適な船通勤の恩恵を享受しているニューヨーカーの一人として、今後も運営を継続・拡大してほしいと願っています。
NYCEDCが過去に行ったレポートは以下から参照できます。
「CITYWIDE FERRY STUDY 2013」
「2018 2019 NYC Ferry Expansion Feasibility Study」