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アメリカのコミュニティ開発法人(Community Development Corporation)について

 アメリカでは非営利組織(Non-Profit Organization )の活動が盛んであり、その活動範囲も社会的存在感も大きい。今回は、アメリカの非営利セクターの一つであるCommunity Development Corporation(CDC)について紹介したい。

1.CDCとは何か

 まずはCommunity Developmentとは何かについて確認したい。日本語ではコミュニティ開発、街づくりと訳されることが多いが、アメリカ住宅都市開発省(U.S. Department of Housing and Urban Development)のHPによると、「地域社会の発展を継続的に支援すること」とある。同省はさらにそれを項目として以下の通り列挙しているが、かなり広範にわたっていることが理解できる。

・インフラの整備・管理

・経済開発プロジェクト

・公共施設の設置

・コミュニティ・センター

・住宅再建

・公共サービス

・住宅の買収

・零細企業支援

・法の施行

・住宅所有者への支援

 今回取り上げるCDCは、これらの中でも特に住宅に関する支援を活動の中心に据えていることが多いアメリカにおける非営利組織の一種である。連邦法や州法等による明確な定義はなく、CDCに関する調査研究の間でもその定義には若干の相違がある。それらの定義の共通点をあぶり出すとおおよそ以下の通りとなる。


①内国歳入法501条(C)3に規定される、課税を免除される非営利組織。

②地域をベースに活動しており貧困層への住宅供給や融資等が活動の中心である。

③地域コミュニティのボトムアップを目的に、地域のために活動している。

2.CDCの歴史

 始まりは1960年代後半、公民権運動の高まりに連動する。この頃、自動車の普及とともに産業と裕福な白人の郊外流出が進み、有色人種や貧困層が都市部に残されるという分断が起きた。

CDCはこうした都市中心部の貧困層へのアフォーダブルな(手ごろな価格の)住宅供給や中小企業への支援により、貧しい地域のボトムアップを行うことを目的として、政府あるいは民間主導で多数結成されていくこととなった。社会保障や福祉に力を入れていた当時のリンド・ジョンソン大統領の「貧困との闘い」キャンペーンによってCDCは躍進していった。

 当時のCDCの主な財源は、連邦政府からのコミュニティ開発包括補助金(Community Development Block Grant)や低所得者住宅投資税額控除(Low-income Housing Tax Credit)、経済機会局(Office of Economic Opportunity)からの助成金であったが、空き地を購入しショッピングセンターを開発する等、自ら事業を行い収益を得る団体もあった。ただし 、住宅供給以外の事業についても、その活動のベースには地域の再開発・活性化という理念がある。

 1980年代に入ると、CDCが頼りにしていた政府からの資金支援が削減されることとなった。1960年代のアメリカでは、第2次世界大戦以降の経済成長期が続いていた。しかし1970年代に入るとオイルショックやインフレ等により経済成長が不安定となった。当初は政府が積極的に財政政策を行い需要を喚起することで経済的安定を保っていたが、政府の財政赤字が大きくなり、1981年にレーガン政権になってからは「強いアメリカ・小さな政府」を合言葉に、政府の市場に対する介入を減らしていった。その中には貧困層への経済的支援等も含まれており、CDCへの補助金等も削減の対象となったのである。

 CDCは、政府からの助成金にばかり頼っていられないという危機感を募らせ、政府以外のコミュニティを支援する組織との連携の道を探っていくこととなった。それと同時期にFord財団がLocal Initiative Support Corporation (以下LISC)という、CDCなどのコミュニティ開発団体への金融支援や技術支援を行う仲介機関を設立した。1980年代以降、こうしたコミュニティ開発ローンファンドが多数結成された。 その後はこうしたファンドからの多様で安定した資金調達が可能となったことで、CDCの活動はより活性化し、その活動範囲を広げていくこととなった。

 全米地域開発会議(National Congress for Community Economic Development、以下NCCED)によるとCDCの数は1988年にはおよそ1500~2000だったものが、2005年には約4600に増加している という。この増加の要因としては、上述の資金調達の多様化に加えて、従来、地域の公共サービスなどを担ってきた団体が住宅開発等CDCとしての活動に範囲を広げたことによる部分も大きい。

1988 1991 1994 1998 2005
CDCの数 1500~2000 2000 2000~2200 3600 4600

(出典:NCCED, Reaching New Heights, 2005年)



 なお、NCCEDは2006年に解散しており、その後全米規模でのCDCの総数調査は行われていない。

3.CDCの例

THUNDER VALLEY COMMUNITY DEVELOPMENT CORPORATION



 サウスダコタ州のPine Ridge Reservationで活動するCDC。同エリアはネイティブアメリカンLakota族の居留地で、彼らへの手ごろな価格の住宅供給や文化の保存を含む以下のような取り組みにより、コミュニティの活性化に取り組んでいる。



・Pine Ridge Reservation内の居住エリアの都市計画の立案

・Lakota族向けの手ごろな住宅、賃貸アパートの開発・管理

・住宅購入を検討しているLakota族向けの、ローンの組み方や購入手続きの方法を指導する1対1のセッション

・Lakota語を学ぶセミナー

・健康な食へのアクセス改善のためのコミュニティガーデンや小規模農場の運営

・選挙への投票登録の呼びかけ

4.まとめ

 多くのCDCが現在も活発に地域で活動しており、このパンデミックの折に急増した貧困者への住宅供給、融資などのニーズに対応している。また、地域の貧困層コミュニティに近しい存在として、災害時の支援なども行っているようだ。

 格差や分断が叫ばれるアメリカだが、民間と行政の中間で弱者を支援するCDCのような組織の存在感もまた大きい。


参考

  • 矢作弘/明石芳彦編著「アメリカのコミュニティ開発」2012年ミネルヴァ書房
  • National Alliance of Community Economic Development Association
  • National Congress for Community Economic Development
  • U.S. Department of Housing and Urban Development-COMMUNITY DEVELOPMENT
  • (廣澤所長補佐 宮城県派遣)