10月2日のNew York Timesによると、自然災害により自宅から避難を余儀なくされ、米国赤十字に避難所の利用を申し込む人の数が記録的水準に達しています。2011年から今年までのデータにより「避難所の泊数」(Shelter nights)を比べてみると、今までで最多の2017年の658,000泊よりも多くなり、9月現在ですでに807,454泊が提供されました。また、コロナウィルスの影響で、従来の体育館などの大規模施設の避難所ではなく、ホテルや大学の寮などの小部屋の避難所が大半を占めています。
赤十字によると、これまで、記録的に活発なハリケーンにより避難勧告が相次ぐルイジアナ州では358,545泊がありました。その次は隣のテキサス州で、同じくハリケーンにより213,282泊がありました(一部はルイジアナ州からの避難者です)。三番目と四番目は山火事が発生しているカリフォルニア州(144,968泊)とオレゴン州(45,362泊)です。山火事が続く中で、10月9日にルイジアナ州に上陸したハリケーンデルタもあり、現時点で数値は不明ですが、さらに人数が全面的に増えたと考えられます。
本年3月以降コロナウィルスの流行が大きな問題となり、災害避難者の取り扱い方が課題になりました。従来の集団施設はリスクが高いことから、できる限り、ホテルなどの距離の確保が可能な施設を使ったほうがいいと危機管理の専門家が判断しました。不幸中の幸い、旅行客が激減し、空いている宿泊施設が豊富にありますが、コストが増えることと十分な空室があるとは限らないため、集団避難所も利用せざるを得ない現実があります。どのように避難者及び避難所のスタッフの安全性を確保するかが課題となりました。
避難所を安全に
Centers for Disease Control and Prevention / CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の”ガイドライン”に基づいてアメリカの各危機管理局がハリケーン等の避難所(シェルター)の在り方を再検討しています。
同ガイドラインは、大まかに:
- 第一に、在宅避難(Shelter in place)等を優先するこ
- 隔離できる小規模避難所(ホテル・大学の寮など)を利用すること
- やむを得ず大規模避難所を活用せざるを得ない場合は、緊急事態の収束後速やかに閉鎖し、避難者を小規模避難所に移動させること
- 避難所の管理者は州・カウンティ・市町村の公衆衛生と危機管理の部局と常にコンタクトを取り、コロナウィルスに関する最新情報を収集すること
- 避難所のスタッフは毎日避難者のコロナウィルス以外のことも含めた健康状態を確認すること
- 避難所や食料品配布のエリアに入る人の体温を必ず測ること
- トイレなどを含めてコロナウィルス患者が完全に隔離できる空間を用意すること
- できる限り、全員がマスク・フェースカバーをつけること
- 避難所を出た後、全員がコロナウィルスにさらされた前提で、隔離すること
- スタッフ・ボランティア・利用者全員が可能な限り検査を受けること
上に述べたように、最近、西海岸の山火事やルイジアナ州・テキサス州のハリケーンによる大量の避難者が生じています。報道によると、大規模避難所に行くことを拒み、親戚や友達のところに行ったり、あるいは自分でホテルを探したりする人が多いそうです。危機管理当局は、できる限りホテル等の個別の部屋に宿泊できる避難所を用いようとしていますが、それでもやむを得ず大規模避難所を活用し、避難者がマスクをし、社会的距離を守ろうとしているそうです。
FEMAの現地での対応
Federal Emergency Management Agency / FEMA (連邦危機管理庁)の活動は、引き続きNational Response Framework / NRF(国家危機対応枠組み)やNational Incident Management System / NIMS(全米危機管理システム)に基づいて行われつつ、コロナウイルスに関するCDCのガイドラインなどを踏まえ、必要に応じて調整しています。(ご参考に”NRFとNIMSの説明”)
災害が発生してから、現地での活動の形を決定する際に、コロナウィルスの感染防止対策を念頭に置く必要があります。第一に、災害時に派遣されるFEMAのスタッフの代わりに現地でその役割が果たせる人材がいれば、業務の一部または全部を委託するのが望ましいと考えられます。また、ウェブサイトやアプリ等の技術を活用することも重要です。さらに、スタッフがFEMAの職員でも地元の人でも、地元の衛生管理局とコミュニケーションを常にとっているか、PPE(個人防護具)やサニタイザーが十分に備蓄されているか、ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)ができるかが大切な要因です。
これとともに、地元の危機管理当局においては、PPEや医療器具の確保を含む入院患者や老人などの避難計画の見直しが不可欠です。
(ご参考に”FEMA 2020 Hurricane Pandemic Plan”)
FEMAは、災害が発生した地域にDisaster Recovery Center(災害復興センター)を設立し、危機管理庁や中小企業庁による連邦災害復興援助の申請等の業務を行います。8月にアイオワ州を襲ったデレチョという暴風により死者4人が発生するとともに、州全体の穀物(とうもろこしと大豆)の40パーセント・14万エーカー(約5.66万ヘクタール)が吹き倒され、州の推定で40億ドル(約4.2兆円)の被害が発生しました。ダメージが最もひどかったマーシャルタウン(人口約27,000人)では、およそ2,800件の建物が被害(軽い被害から全壊まで)を受けました。通常であれば、FEMAが災害復興センターを設立しますが、コロナウィルスの影響でいつもの形の広い部屋に多数のテーブルを置いて、被災者が書類を記載したり申請受付をすることができないので、オンライン・電話・アプリの三つの手段を提供しました。しかし、被害によりインターネットが何週間も復旧せず、対面による申請手段の必要性も明らかになったことから、9月15日から10月3日までの間、ドライブスルーの施設も提供しました。
ニューヨーク市の例
各州と地方自治体の危機管理制度は多少の違いがありますが、ニューヨーク市の例を見ると上記のガイドラインが実際にどのように運用されるかが分かります。同市の避難システムは市福祉局(Department of Social Services / DSS) が主導して運営します。避難所は「太陽系」と呼ばれるシステムを用いています。市内各地域に合計60か所の避難センターが設置され、各センターの下多数のハリケーンシェルターが割り当てられ、市民が避難センターで申請してから指定された避難所に移動します。必要に応じて避難所を立ち上げ、400箇所以上まで提供できます。
同市の計画を見ると、具体的に、コロナウィルス感染症対策として以下の手段を計画に取り入れています。
第一に、既存のシステムに取り入れた手段として、避難センターの入口に新たにウェルカムステーションを設置し、健康状態等に関する質問やコロナウィルスの検査を行います。コロナウィルス感染の可能性がある人は別室に隔離され、感染がないことが確認されたら通常の避難所に案内されます。いずれのグループに対しても、ペットまたは障害や特別ニーズがある人にサービス提供できるシェルターを有しています。
(ニューヨーク市危機管理局提供)
避難所のほうは、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を守るために一人に60平方フィート(約5.6平米)を用意します。家族内等を除き、原則として最低6フィート(約1.8メートル)の距離を置くべきですが、同じ家族でも、就寝時は頭を並べて寝るのではなく、交互に(頭・足・頭)寝ることが勧められています。
施設内では、全員にマスク着用・ソーシャルディスタンシング・手の消毒等が義務付けられ、掃除と消毒もCDCと市衛生局の基準に従って頻繁に行われることも義務付けられています。また、職員やボランティアが防護具を着用し、定期的に体温を測ったりします。
ホテルなどの利用をどうするかは現時点では明らかになっていませんが、8年前のハリケーンサンディの時、大勢の避難者に避難所が圧倒され、一時期ホテルも利用したので、可能性はあり得るでしょう。
幸い、今年は現時点で避難勧告が発出されていないので、市は引き続き、南部や西部の例を見ながら教訓を得て準備を続けています。
Matthew Gillam
上級調査員
2020年10月26日