どのように環境問題と若年層の雇用問題を両立させるのか?「グリーンスキル」と呼ばれる「樹木にやさしい」ことをテーマにした取り組みがニューヘブン市で長年行われている。アメリカ大陸入植直後の1638年から、エルム(ニレの木)のある風景がニューヘブン市の特徴であった。アメリカで地域住民が植樹を初めて行った場所がニューヘブン市であった。実際、あまりにも多くのエルムがニューヘブン市に植わっていることからニューヘブン市は「エルムシティ」と呼ばれているほどである。しかし、エルムの病気が大発生したことからニューヘブン市の約90パーセントのエルムが枯れてしまった。エルムシティの名前を再び取り戻し、「森の町」を蘇らせるためニューヘブン市長は2009年からの5か年計画を発表した。ニューヘブン市は2014年までに10,000本のエルムを植える予定である。
この壮大な計画には多大な費用がかかる。その問題を解決するため、市はNPO団体「都市資源構想Urban Resources Initiative (URI)」を計画に引き込んだ。URIの計画は、半分の木は私有地に植え、もう半分を公共の土地に植えるというものであった。公共の土地への植林は「コミュニティー・グリーンスペース」というプログラムを通じすべてボランティアによって行い、公有地の管理について学びたいという人達なら誰でもこのプログラムに参加できるようにした。
ボランティアプログラムが一定の数に達した後、URIが次に目を付けたのは若者であった。ニューヘブン市は、低所得層の高校生や犯罪者、薬物乱用者用の社会復帰向けに「グリーンスキル」と名付けた基本的な仕事のスキルを学ぶためのプログラムを開始した。このプログラムを始めてから現在までに、103名の十代の若者と31名の成人によって1,491本の植樹が行われた。
このプログラムでは、10代の若者向けに10週間のインターンシップが行われ、そこで彼らは植樹に関して専門的な技術や管理手法を学ぶと同時に生態系についても学ぶことができる。もっとも大切なことは、彼らが「仕事をする」ということを体験することができることであった。多くのプログラム体験者にとってこれが彼らの初めての仕事であり、このプログラムを通して、「時間を守ること」、「チームワークの大切さ」、「人とのコミュニケーション」、「自分自身の価値」や「職業倫理」などの重要な社会常識を学ぶことができるのである。ニューヘブン市はこのプログラムが生涯雇用の促進の一助となることを期待している。さらにエール大学の山林環境学専攻の卒業生が彼らのインストラクターになることで、彼ら自身も、リーダーシップについて学んだり実際に地域社会の中で働く経験を積むことができるという効果もある。URIの指導の元でのエルムの植樹に所有地を提供したオーナーにとっても所有地の樹木の適切な管理を行えるというメリットを得られる。
忘れてはならないのは、このプログラムは形となって現れるもの以上のものを生み出していることだ。市は積極的にこのプログラムに関わり、市長も植樹の現場にいつも自ら参加している。これが真の官民パートナーシップの見本となり、結果は、生活環境の向上だけでなく、若年層の雇用問題、地域社会の絆、官民パートナーシップと複合的な成功例となり、経済的にも効果が上がっている。このプログラムのおかげでニューヘブン市だけで年間4百万ドル(約3億2千万円)の経済効果が認められているのである。
2011年10月20日
執筆:Seth Benjamin, Senior Researcher