例年、9月中旬はハリケーンシーズンのピークですが、現時点でニューヨークに被害をもたらすハリケーンは発生していません。しかし、ニューヨーク市は去年・一昨年のハリケーン被害を踏まえ、今後のハリケーンの襲来に備えて対策を進めています。
ニューヨーク市は、2012年のハリケーン・サンディや2011年のハリケーン・アイリーンの苦い経験に基づき、ハリケーン襲来時の避難区域を再検討し、防災体制を抜本的に見直しました。
従来の避難区域はZone A – Cの3段階に分かれ、Zoneごとに避難勧告が出されていました。3段階のZoneは、ハリケーンのカテゴリ(風速・波の高さにより5段階に分類)をはじめとした単純な指標を元に設定され、この際の海上の潮位は平均的な潮位と想定されていました。
サンディの襲来時は、ブルームバーグ市長等が最大風速が多少弱まってきていたこと及びニューヨークを直撃しないことを考慮し、最小限の避難区域であるZone Aに対してのみ避難勧告を発表しました。しかし、サンディの襲来時に満潮時刻が重なり、サンディの進行方向が西よりでニューヨークやニュージャージーの海岸に吹き寄せる風が直撃の場合よりも強かったことから、想定以上の高波・高潮となり、広い範囲で洪水となりました。想定が甘かっただけではなく、避難区域が3段階しかないことから、避難区域ごとの状況に応じた細やかな被害予測や注意・避難命令ができず、結果的に被害が拡大しました。
新しい避難区域の設定に当たって、ニューヨーク市の地理情報システム部(GIS / Geographic Information Systems)は、ハリケーンによる高波の状況を予測するSLOSH (Sea, Lake, and Overland Surges from Hurricanes) モデルや洪水マップなどの最新情報をアメリカ国立気象局(NWS / National Weather Service)から取り入れました。また、ハリケーンのカテゴリだけでなく、ハリケーンの進行方向や当日の潮位といった情報も取り入れられました。4,000回以上に渡るコンピューターシミュレーションにより得られた「最悪のシナリオ」を想定し、避難区域の面積は拡大され、避難区域のZoneはZone A – C の3段階からZone 1 – 6の 6段階へと細かく分類されました。
新しい避難区域については、6月上旬にニューヨーク市危機管理局(OEM / Office of Emergency Management)により開催された「ハリケーンの災害対策と防災計画」の説明会において、詳細な説明が行われました。説明によると、北半球で発生するハリケーンには進行方向右側で風速が強まるという特徴があるため、ニューヨーク市に対してハリケーンが南西に位置している場合、暴風、高波の被害が拡大しやすくなります。そのため、アイリーンのような市を直撃するハリケーンであっても、進行方向が北東の場合の被害は比較的小規模になります。一方、直撃を免れてもサンディのように市の南部を西よりに進む場合は影響が大きくなります。そのうえ、満潮時刻が重なると危険度はさらに高まります。新しい避難区域はこのような状況を踏まえて設定されました。
避難区域の見直しに伴い、避難区域内の人口は従来の3 Zone・230万人から6 Zone・300万人に拡大しました。避難区域の面積が広くなっただけでなく、この15年間ほどで水辺の産業跡地が再開発されて高級住宅地に変わるという変化も起きています。海岸沿いの地域の防災は大きな課題となっていますが、防災対策だけでなく、徹底的な避難対策も不可欠です。
Matthew Gillam
Senior Researcher
2013年9月