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ニューヨーク市における山口県山口市の観光PR活動を支援して

【クレアニューヨーク事務所における海外活動支援】

 クレアは、地域産品の販路拡大、観光PR、海外の地域振興施策に関する先進事例調査など、自治体の海外活動を支援しています。ニューヨーク事務所では、独自のネットワーク、知識、経験を活かし、自治体の海外活動が円滑で効果的に行えるようサポートしており、2023年度には51件の支援を実施しました。本レポートでは、2024年5月11日にニューヨーク市のセントラルパークで開催されたジャパン・パレードにおいて、観光PRを行った山口市への支援の様子をご紹介します。

【きっかけとなったニューヨークタイムズ紙】

 山口市が海外PRを実施するきっかけとなったのは、2023年に、ニューヨークタイムズ紙が発表した「52 places to go in 2024(2024年に訪れるべき52の場所)」に選ばれたことです。同紙は、235ヵ国、900万人以上の購読者を持ち、スタッフは55か国の言語に対応します(同紙公式サイト2022年第3四半期時点)。この発表に際して、多くの候補地の中から選定したとされています。
 山口市は、同紙に選定されたことによるPR効果を最大化するため、自治体として初めてパレードへの参加を決定されました。また、ニューヨークタイムズ本社を訪れるなど、様々工夫を凝らしていました。

【ジャパン・パレード】

 ジャパン・パレードは、在ニューヨーク日本国総領事館を含む、現地の日系企業が参画する非営利団体「ジャパン・デイ Inc.」が主催する、ニューヨーク最大の日本文化啓発事業です。日系企業や団体はもちろん、国際的な著名人や現地で人気のキャラクター、アニメのパフォーマンス、日本文化に関するコミュニティ(空手教室、剣道教室など)、県人会による神輿や伝統的な踊りなどが参加し、パレードが行われます。
 また、同会場ではジャパン・ストリートフェアが併設され、日本料理のフードブースや書道などの体験ブース、日本政府観光局や東京観光レップ、クレアニューヨーク事務所などの観光PRブースが立ち並び、1日で50,000人もの来場者が訪れます。すでに定番化しつつあり、世界各国からの旅行者も多く訪れる点が特徴です。
 海外での活動においては、現地事業者や消費者へのPRが重要ですが、中長期的な効果を生むためには、現地の日系団体やコミュニティとの関係作りや継続性が重要です。そのため、既にイベントとして一定の地位が確立されている当事業への参画は非常に効果的であったと考えられます。

【多くの人々の話題となった現地活動】

 山口市は、当事業を通じて、米系・日系を含む100以上の媒体でメディアに露出しました。具体的には、以下のような取り組みが行われました。

<➀パレードへの市民の巻き込み>
 山口市からは19名が現地に渡航しました。内訳は、市長を含む市職員、市内観光団体、旅行代理店の関係者で、PRの軸として夏の風物詩である「山口祇園祭」を位置付け、伝統文化である祭囃子の関係者が10名帯同しました。
 市長の渡航により、パレードの開会式では特別に挨拶の時間が設けられ、マスコミによる囲み取材も行われました。また、ニューヨークタイムズ社への訪問も実現しました。さらに、前夜にはニューヨーク山口県人会との懇親会が開催され、祭囃子の一行による特別なお囃子が披露されるなど、現地関係者との関係づくりに市民が積極的に参画する様子が見られました。加えて、祭囃子の一行には多様な立場の人々が含まれており、今後の活動の広がりを感じさせました。

<➁ストリート・フェアにおける観光PRブース出展>
 山口市単独で設置したブースでは、テントの背面にニューヨークタイムズ紙で取り上げられた「紅葉を背景とした着物姿」の大きな画像と、山口七夕ちょうちんまつりのシンボルである紅提灯が飾られました。その結果、多くの来場者がブースを背景に記念撮影を行っていました。また、7種類のノベルティを準備した中で、最も効果的だったのは「ハチマキ」です。ブースを訪れた来場者のほぼ全員がその場でハチマキを頭に巻き、その姿で会場を歩き回っていたため、口コミで話題が広がり、会場内で最も長い行列が山口市のブースに連なりました。さらに、効果的なノベルティを提供することで、来場者によるハッシュタグを付けたSNSへの投稿も促進され、協力を得ることができました。
 また、こうした取り組みが円滑に行われた要因として、山口市の迅速な対応が挙げられます。ニューヨークタイムズ紙の発表後、すぐに外部との調整が開始されました。米国での事業は初めてであったため、調整事項は多岐にわたりましたが、組織内の協力体制が整っており、時差があるにもかかわらず職員と当事務所との間で意思疎通や情報共有が迅速に行えたことが、円滑な活動に繋がったと考えられます。

早い段階からクレアニューヨーク事務所に支援に関する相談を受けたことの派生効果として、2024年1月にクレアニューヨーク事務所が出展した米国最大級の旅行博「トラベル・アンド・アドベンチャーショー」では、ニューヨークタイムズ紙の発表に加え、ウォールストリートジャーナル紙の類似発表に選ばれた「九州」を含む特設コーナーを設けました。クレア山口県支部と情報共有を行い、山口県の観光パンフレットを配布することで、山口市を紹介する機会を創出し、その効果を県内に広げる取り組みを支援することができました。

【おわりに】

 山口市は、ニューヨークタイムズ紙掲載を契機として、ジャパン・パレードへの自治体初の参加を通じて、多くのメディア露出を果たしました。また、この間に山口市には、米国のみならず、欧州や豪州などから観光客が訪れるなど、記事掲載やこれまでのPRの成果が現れているようです。ニューヨークタイムズ紙掲載に限らず、そのような機会がいつ訪れるかは予測できません。限られた財源の中で突発的かつ前例のない事業チャンスをしっかりと活用できるよう、日頃から組織体制を整え、人材育成や民間事業者との連携を図る必要性を感じるとともに、こうした自治体による海外PRが更に続いていくことを期待したいと思います。