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急速に進むワクチン接種(その3)

 その1ではCovidワクチン接種の予約について、その2では実際に接種に行った際の様子及びワクチンパスポートについて述べたが、今回はワクチン接種の進め方の変化、そしてワクチンの余りが出た場合の対応について紹介する。

○高齢者等の接種を推進するための取組
 その1で述べたとおり、当地でワクチン接種の予約を取るのは、ネット予約に慣れた世代にとっても十分大変であり、それ以外の層にとってはかなりハードルが高い。予約を支援する様々なボランティアの取組についても紹介したが、積極的に接種を希望する人に対する接種がひと段落するところで、今後更なる接種推進のために、仕組みとしてどのように対応するのかが注目される。
 現時点で出てきている対応は、予約不要で接種を可能にすることである。ニューヨーク州の運営する接種場は、60歳以上の人は予約なしで接種場を訪問しても接種を受けられるようになり、さらに、ニューヨーク市が運営する接種場については、接種対象となる16歳以上であれば誰でも予約なしで接種を受けられるようになった。ワクチンの供給及び接種体制の安定もこの取扱いの実現に寄与したものと考えられる。

○ワクチンの余りが出た場合の対応
 この点についてオフィシャルな情報は示されていないが、様々な口コミや報道によると、無駄を出さないように「柔軟な対応」が許容されており、過去にはその時点で接種対象要件を満たしていなかった人も含めて、未接種者に対する接種が行われているようである。
 一例を挙げると、某接種場では、予約のない接種希望者に対するウェイトリストが①高齢者、②エッセンシャルワーカー、③その他の3種類準備されており、該当のリストに名前を書いておくと、当日ワクチンの余りが発生した際、①の掲載者から順に連絡が行く。連絡から5分以内に現れないと次の人に順番が回る。「5分以内に」の制約が厳しいせいか、③の掲載者にも順番が回ってくる可能性は十分にあり、実際にそのようにして接種対象要件を満たさないうちに接種を受けた人が少なからずいるようである。現在は接種対象要件が緩和されたためこのような運用ではなくなっていると考えられるが、上記の予約なし接種はこの運用の延長線上にあると思われる。このほか、薬局などの小規模な接種場においては、閉店間際に訪問し「運がいいと」対応してもらえる場合がある、あるいは薬局側から店内の客に声をかけて接種する場合もある等々の話を聞いたことがある。いずれにしても共通のルールがあるわけではなく、それぞれの接種場で合理的と考えられるやり方で対応しているものと考えられ、それにより公平性等の観点から不満が生じたという話は(局地的なものはあっても)大きな問題としては聞かない。
 なお、上記はいずれも公式な情報ではなく伝聞によるものであり、また、現在では取扱いが変更になっている可能性がある点十分にご留意いただきたい。

○これまでの動きを振り返って
 既に米国内で延べ2億3千万回の接種が行われ、少なくとも1回接種を受けた米国在住者は4割を超える(4月26日現在)。米国は世界で最も順調にワクチン接種が進展している国の1つと言ってよいだろう。
 その鍵となるワクチンの調達について筆者は詳細を知り得る立場にないが、入手したワクチンの接種を迅速かつ効率的に進めることに各州が文字通り全力を挙げていることは間違いない。接種の優先順位の考え方(※)は元々日本と概ね同様であったが、優先順位の高い層に対する接種が終わらないうちから次の優先順位の層、次の次の層と接種対象を矢継ぎ早に拡大し、進捗が全体の3分の1程度の段階でついに16歳以上の全員が接種対象となった。こうすることで常に需要が供給を上回る状況となり、予約を取る側から見れば大変ではあるものの、接種を迅速に進めるという意味では非常に効果的であったと考えられる。最初から効率的な体制が組まれていたわけではない。ワクチン接種の始まった頃の報道を振り返ると、届いたワクチンの○分の1しか接種されていない、医療従事者の○%しか接種が済んでいない、といった類の記事が散見され、走りながら状況に合わせてオペレーションの改善を進めていった苦労と創意工夫の跡が窺われる。さらにニューヨーク州は病院等に対し、ワクチンの在庫を滞留させた場合は罰金を科す旨の方針を示し、そこまでやるのかと驚かされたが、そのことも関係機関の動きを加速するものであった。世界的にワクチンの需要が逼迫する中で、このようにワクチンの接種を極めて効率的な形で進め、いわばワクチンが「足りない」状況を常に現出させることは、調達にもプラスの影響を与えたのかもしれない。バイデン政権による政権最初の100日でワクチンを1億回接種する方針(その後2億回に修正)も強いコミットメントとして機能した。
 折しも全米各地では昨年春から続く各種規制の緩和が進められている。ワクチン接種が進む一方で、日々の感染者数は全米で依然5万5千人に上り(4月26日現在、7日間平均)、緊急事態宣言下の日本と比べても相当多い。ワクチン接種が今後も順調に進展するのか、そして新型コロナウイルスの抑え込みに成功するのか、依然状況の推移を見守る必要がある。

<米国内における新型コロナウイルス感染者数の推移>


  (CDCウェブサイトより)

(※)ワクチン接種の優先順位は各州が定めることとされているが、アメリカ疾病管理センター(CDC)が出したガイドラインに準拠する内容で定める州が多数であった。CDCガイドラインにおいては、以下の全4段階に分類された。
・フェーズ1a:医療従事者、介護施設の居住者
・フェーズ1b:75歳以上の高齢者と、消防士や警察官、教師、スーパーの従業員など市民生活の維持に必要不可欠な業種の労働者
・フェーズ1c:65~74歳の人、他の疾患を有する16歳~64歳の人、フェーズ1a及び1bに含まれなかった必要不可欠な業種の労働者
・フェーズ2:上記に該当しない16歳以上の者