変異ウイルスの拡大等により未だに収束の見通しが立たない新型コロナウイルス感染症だが、ワクチン接種が急速に進むアメリカでは、州によって少しずつ経済を再開させつつある。 アメリカ全土で最も多い累計感染者(約363万人)・死者数(約6万人)を記録し、一時は2度の自宅待機命令を発令したカリフォルニア州でも、3月以降、感染者数は大幅に減少し(※)、6月15日には、ある一定条件の下、全面的に経済を再開させる方針である。また、ワクチン接種対象は、4月15日から16歳以上に拡大され、現時点(4月26日)で約1,770万人、人口の約45%が1回目の接種を終えている。
※同州の人口10万人あたりの1日の感染者数(7日移動平均)は、ピークだった2021年1月には110人を超えていたのに対し、3月下旬には5人程度にまで減少してきている。
【カリフォルニア州における新規感染者数及び死者数の推移(2021年4月26日現在)】
今回は、同州のコロナ対策のうち、主に、これまで州が発令してきた自宅待機命令の内容及び解除基準について取り上げることとする。
〇概略
カリフォルニア州は、2020年3月19日にアメリカ国内で初となる自宅待機令(①)を州内全域に発令し、必要不可欠な仕事や買い物以外では外出しないよう要請した。 4月25日より段階的に制限措置を緩和し、8月28日にはカウンティ(行政区分)単位で特定の事業や活動の段階的な再開を許可するための計画(参考1)を発表し、徐々に経済を再開させていたが、感染が再拡大したため、2020年12月3日に再度自宅待機令(②)を発令した。 2021年1月25日に②の自宅待機令が解除され、4月6日には、6月15日を目途に経済活動を完全に再開する方針(参考2)が示された。
①2020年3月19日の自宅待機命令(Stay-at-home order)
・命令の内容
(a)対象地域:州内全域
(b)規制対象業種等:医療機関、薬局、食料品店などの必須の機関・店舗以外
・決定基準:なし(州知事の判断による)
・緩和基準(第1段階(最も厳しい規制)→第2段階)
1.感染状況の安定:新規感染者数が1万人当たり1人を下回る、直近14日間のCovid19による死亡者が0となる
2.エッセンシャルワーカーの保護:体調不良又は濃厚接触時のサポート体制、消毒・PPE等の確保
3.検査能力:人口1千人当たり1.5回/日の実施
4.追跡能力:人口10万人当たり最低15名の追跡要員確保、ホームレスの少なくとも15%の住居の確保
5.医療提供体制:35%以上の空き病床、病院による医療従事者保護のための計画策定
6.ハイリスク層対策:高齢者施設は14日分以上のPPE確保
7.再規制のための基準策定
※自宅待機命令自体の解除基準は示されていない
なお、当初は州内で統一的に進めることを基本としていたが、途中で感染状況が落ち着いている地域より順次再開するルールが追加された。
(参考1)特定の事業や活動の段階的な再開を許可するための計画(通称Blueprint)
当該計画は、人口10万人あたりの1日当たりの感染者数(7日移動平均)と検査陽性率の指標に基づき、各郡を感染状況で4段階の区分を設け、認められる活動の範囲をそれぞれ定義している。
具体的には、(1)広く蔓延(Widespread)-紫色、(2)かなり蔓延(Substantial)-赤色、(3)中程度の蔓延(Moderate)-オレンジ、(4)低度の蔓延(Minimal)-黄色の4段階に分類され、各段階によって以下の規制を受けることになる。なお、「紫色」に指定される基準は人口10万人あたりの1日当たりの感染者数(7日移動平均)が10人を超え、郡全体で8.0%以上の陽性率となった場合である。
(1)広く蔓延(Widespread):紫色における規制措置
・エッセンシャルワークではない屋内事業の多くを閉鎖
・オフィスは原則として在宅勤務
・飲食店は屋外やテイクアウト・デリバリーに限り可
・人々の集会は、3家族以下の調整された屋外での集いに限り可
(2)かなり蔓延(Substantial):赤色における規制措置
・一部のエッセンシャルワークではない屋内事業を閉鎖
・オフィスは原則として在宅勤務
・飲食店は収容人数を25%以下もしくは100人以下に制限して屋内営業可
・人々の集会は、屋内は推奨されないが、調整された状況で3家族以下に限り容認
(3)中程度の蔓延(Moderate):オレンジにおける規制措置
・一部の屋内事業は調整しながらの営業を容認
・オフィスは在宅勤務を推奨するが、制限付きで勤務可
・飲食店は収容人数を50%以下もしくは200人以下に制限して屋内営業可
・人々の集会は、屋内は推奨されないが、調整された状況で3家族以下に限り容認
(4)低度の蔓延(Minimal):黄色における規制措置
・屋内事業のほとんどは調整しがならの営業を容認
・オフィスは在宅勤務を推奨するが、制限付きで勤務可
・飲食店は収容人数を50%以下で屋内営業可
・人々の集会は、屋内は推奨されないが、調整された状況で3家族以下に限り容認
②2020年12月3日の自宅待機命令(Stay-at-home order)
・命令の内容(①の自宅待機命令との相違点)
(a)対象地域:①では州内全域を対象としていたのに対し、②は感染状況に係る基準を上回る地域のみが対象とされた。
(b)規制対象業種等:①では必要不可欠な業種等以外は原則として閉鎖されたが、②では①で閉鎖対象とされたものの一部が対象外とされた。その例として、学校(自治体の判断による)、プレイグラウンド、ショッピングモール(上限20%)、屋外施設、プロスポーツ(無観客だが試合実施は可)等がある。
・決定基準:ICU空床率(15%を切る地域が自宅待機の対象)
※元々15%と定めていたわけではなく、知事の判断で自宅待機命令を出す際に15%で線引きして対象地域を区切った。
・解除基準:ICU空床率が15%以上となったことから、命令発出時に定めた終期(2021年1月25日)により終了
なお、解除後はBlueprintによる管理に再移行しており、各カウンティの感染状況等に応じて一部の規制は現在も継続している。
(参考2)全面的な経済活動再開へ(2021年6月15日から(2021年4月6日発表))
全面的な経済活動再開のための2つの基準は、以下のとおり。
(1)ワクチン接種を希望する16歳以上の州民に十分な量のワクチンが供給されていること
(2)入院者数が安定して低いこと
※州政府は入院者数やワクチンへのアクセス、変異ウイルスに対するワクチンの有効性を引き続き注視し、必要があれば、6月15日の経済の全面再開予定日を再検討する可能性もある。
州公衆衛生局の発表によると、全面的に経済が再開された場合、オフィスについては、屋内換気の改善やマスク着用、事業運営に影響がない範囲でのリモートワークなど、感染リスクを減らす対策が引き続き求められているものの、通常勤務が可能となる。
また、学校などの教育機関は、ガイドラインなどを順守しながら全ての授業を対面で行うことが可能となり、レストランや小売店、映画館、美術館など多くの施設は、収容人数の制限なく営業を再開できるようになるとしている。
さらに、スタジアムなど大規模施設でのイベントについて、5,000人以上が集まる場合には、参加者全員がワクチン接種等を受けているという条件を満たせば許可されることになっている。
一時は、アメリカ最悪の感染者数を出してしまった同州であるが、ワクチン接種が急速に進む中で、今後どのように感染状況が推移していくのか、予定どおり経済が全面再開となるのか、引き続き同州の動向を注視していきたい。