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コロナウィルス:米連邦政府のニューヨーク州等に対する対応 4月7日現在

米国の危機管理制度は原則として市町村レベルから徐々に拡大する体制となっています。つまり、市町村が単独で十分に緊急事態に対応できればそれですみますが、不足の場合は隣接している市町村との相互応援協定を実施し、それでもまだ不十分であれば州に支援を依頼します。州も十分に対応できない場合、隣接している州との相互応援協定を実施し、それでもなお足りないと最終的に連邦政府に支援を依頼します。

コロナウィルス対策から、各レベルの権限やこの危機管理制度が(ある程度まで)明瞭になります。

これまで、ニューヨーク市と州の対策を中心に紹介してきましたが、今回は連邦政府の対策と役割に着目します。現時点に至るまで、州政府の対応が一番決定的でしたが、状況の進展と長期化に伴い、連邦政府の活動が州政府レベルの対応の持続可能性と効率性に及ぼす影響が大きくなります。



(Courtesy of the National Park Service)

今まで、おそらく、一番有意義な対策は連邦議会が可決した三つの経済対策(economic relief measures)です。第一は、3月6日に可決された「Coronavirus Preparedness and Response Supplemental Appropriations Act, 2020」で、83億ドルがワクチンの開発、防護具の取得、健康管理者の安全、中小企業向けの貸付けなどに充てられました。第二の「Families First Coronavirus Response Act」によって、1,040億ドルがウィルス検査、仕事ができない職員の有給休暇や失業保険の拡大、食料品の確保などに充てられました。

第三は、「Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security (CARES) Act」。上院議長が経済促進というより経済救助だと述べているものです。大まかにいうと、州と地方自治体・大手企業・中小企業・個人への約2兆ドルの援助金です。予算は一応確実ですが(追加される可能性もあり)、報道によると、実際に配布する金融機関がまだ十分に実施方法や体制を有していない上に、妨げとなる条件(例えば、すでにその銀行からのローンがない限り申請ができないなど)を付けている例もあるといわれています。

第四番目の法案は現在検討中です。

また、大統領が行う対策もあります。具体的な対策としては、大統領布告の発出による入国管理の制限・3月13日の全国の非常事態宣言・州知事の依頼による各州別の非常事態宣言・各連邦政府機関の活動に対する指示・National Stockpile(連邦政府が管理する緊急事態用の備蓄品)から医療関係の物資の配布・Defense Production Act(国防生産法)の実施等ができます。

大統領が初めてとった対策は1月31日に署名した中国からの入国制限でした。その後、イラン・ヨーロッパ・韓国などが対象に追加されました。政府機関も様々な対策を実施しましたが、どこまでが大統領の指示によるものか不明瞭です。備蓄品の配布と国防生産法の実施がクオモニューヨーク州知事をはじめ、大勢の知事と大統領の間で大きな争点となりました。通常、備蓄品は連邦の緊急事態宣言があれば、必要に応じて緊急事態管理庁(FEMA)を通して州や地方自治体に配布されますが、クオモ知事などの州知事によると、トランプ政権はかなりの抵抗感があるそうです。確かに、すべての州の要請に応じるには備蓄が不十分ですが、実際にどこまで協力的な体制となっているかに関して現時点で断定的な情報はありません。

大統領の非常事態宣言は各州に対しても個々行われます。ニュ-ヨーク州に対する宣言は、3月20日に発出されました。同宣言によって、連邦の援助金や支援にアクセスできます。

国防生産法の実施も、大統領の発言がさまざまあって、されているか否かという根本的なことさえ最近まで判断できませんでした。同法を利用すれば、企業に対して国のために必要な物資の生産や、他の顧客向けに生産した物資を国が優先的に調達を受けられるよう命じることができます。今回のコロナウィルス対策の場合、人工呼吸器(ventilator)や防護具など不足が見込まれる物資の生産の増加に、この規定を利用すべきだと州知事などからの主張が多くあった中、大統領は最近までこれを拒否してきました。結局、4月2日に、多数の需要が見込まれる防護具や機器の生産増や、他の注文により生産された物資を米国の医療機関向けに転換するように命じました。7日のNew York Timesによると、同物資の一部は、州政府が注文したものであるのに、FEMAにとられたという報道もありました。

通常、現在のような全国的な緊急事態であれば、自治体の長や州知事が「現場指揮官」のような役割を果たしながら、大統領の命令に基づき連邦政府がFEMAなどを通して各州の対応に関する指揮調整をある程度行うこととされていますが、トランプ大統領は州に任せる方針を取ってきました。クオモ知事は、50州が競争しながら、また他国やFEMA自体とも競争して人工呼吸器や防護具を購入しようとするよりも、連邦政府・FEMAがリードを取って全州のために交渉や購入を行って、必要に応じて配分するほうが合理的だと提案していますが、トランプ政権はこれを拒否してきました。結果的に、医療機器や防護具の金額がこの競争により高騰すると共に、一番必要とされているところに配置することができません。トランプ政権の理屈が不可解です。

連邦政府が関与しないため、州間で独自に協力し合っています。クオモ知事の4月4日の記者会見の中で、オレゴン州より140台の人工呼吸器を貸与を受けると発表し、また6日にワシントン州とカリフォルニア州からも同様に貸与を受けるとの発言がありました。

連邦政府機関による支援として、ニューヨーク市のJavits Centerというコンベンションセンターに、United States Army Corps of Engineers(米軍工学部隊)によって2,500床の仮設病院が設置されました。もともとコロナウィルス以外の患者のためでしたが、クオモ知事の強い要請に応えて、コロナ陽性者を受け入れることになりました。国防総省が派遣する医師や機器などを利用するため、州と市の負担を多少軽減する期待があります。連邦健康福祉省(HHS)のDisaster Medical Assistance Teams(DMAT)(災害医療チーム)がありますが、今回の対応では、国防総省が退役軍医等に呼び掛けてスタッフを用意しようとしているそうです。同様の仮設病院がニュージャージー州など他の州にも設置されます。6日の記者会見で、知事の説明によると、連邦政府より派遣されている医療関係者の中から300人が市内の病院に配置されて、残りがJavits Centerに行く予定だそうです。

米海軍の病院船「Comfort」も派遣されて、コロナウィルスに罹っていない患者を受け入れると発表されましたが、患者の人数がかなり少なかったそうです。 4月6日に、クオモ知事の大統領への要請に応えて、同船も感染者を受け入れると国防総省が方針を変えました。しかし、集中治療が必要とされる患者なので、前の1,000床が500床に半減します。

もう一つの連邦政府から派遣されているチームは、死者を取り扱う連邦健康福祉省のDisaster Mortuary Assistance Team(DMORT)(災害遺体処理チーム)です。ニューヨーク市の病院の近くに置かれた冷蔵トレーラーの写真が広く報道されています。各病院と市の遺体安置所が一杯になった場合にこのトレーラーと職員が利用されますが、既に先週から稼働しているようです。

Matthew Gillam

上級調査員