先日、ニューヨーク市消費者局の副局長のフラン・フリードマン氏とコミュニティ関係担当副ディレクターのリッキー・ウォン氏とミーティングを行った。主な目的は同局の苦情の取り扱い制度の詳細の説明であったが、同局の歴史や構造、仕事の内容や様々な背景についても話を伺った。
ニューヨーク市消費者局(Department of Consumer Affairs)は2011年現在で、設立後42年を迎えた。1968年に市場局(Department of Markets)とライセンス局(Department of Licensing)が合併して発足した消費者局は、その翌年に成立した消費者保護法(市法)により権限が強化され、現在の形となった。市の消費者保護局としては、全米で一番歴史が長い。
同局の職員は約300名で、そのうち3分の1は検査官である。この比較的少人数の検査官で、管轄下にある55業種の78,000以上の事業者に営業許可を発行し、さらに約155,000の事業者に関する苦情も受け付け、約233,000の事業者を管理する。消費者局以外には、レストラン・食品関係は市の保健衛生局(Department of Health & Mental Hygiene)が担当し、ニューヨーク市建物局(Department of Buildings)が配管工の許可等を担当する。ニューヨーク州の消費者保護課もあるが、ニューヨーク市では消費者局の方が中心的な役割を果たす。
消費者局の中心的な役割は、営業許可の発行や消費者保護法の実施とともに、包括的に法律に基づく事業者の責任の徹底と消費者の権利の保護を行うとともに、双方に情報提供や教育活動を行い、また、苦情等の問題について中立の立場から解決することである。情報提供の例として、事業者側に、年に一度、「営業教育の日」と称する非公式の「処罰なしの日」を設けており、罰金を科する代わりに違法になる問題点の解決方法だけを教えている。
消費者局は、近年、世界的問題に発展した住宅ローンのトラブルに対して、詐欺師に狙われやすい低所得者を中心に金融関係の情報や教育を提供するプログラムを開始した。これは、ニューヨーク市の貧困地域で特に大きな問題であり、その一因として、消費者教育の不足が挙げられたため、2007年にプログラムを成立させた。情報提供以外に、具体的な低所得者への支援として、銀行の協力を得て簡素な口座やデビットカードを手数料なしで提供する市民サービスセンターが20箇所ほど設立された。当プログラムは、開始当初、民間からの支援金によって運営していたが、パイロットプログラムが成功したため、市が一般会計予算から直接支出するようになったとフリードマン氏は語っていた。
消費者からの苦情の申し立ては、ダイヤル311(市民コールセンター)以外に、オンラインで消費者局のウェブサイトや、Twitter、Facebookも利用できる。苦情対応には2種類がある。一つには、現在直接的な問題が起きているわけではないが、事業者に何らかの違反の疑いがある場合である。この場合は、検査官が調査を行なってから必要に応じて問題解決を事業者側に要求する。二つ目は、消費者からの苦情申し立てを受けてから、申し立てに含まれている情報(領収書・写真・契約書等)に基づいて聴聞会の開催通知を発出し、事業者側に問い合わせる。実際に問題があると判断すれば、和解策を探る。和解に至らない場合には、苦情を申し立てた消費者は(金額によって)小額裁判所、あるいは民事裁判所を通して提訴できる。
全世界から集まってくるニューヨークの住民に対し、「可能な限り住民の母国語で対応する」というブルムバーグ市長の方針に従い、情報やサービス提供は全て、通常は需要が多い5ヵ国語(英語、中国語、スペイン語、韓国語、ロシア語)及びクレオール(フランス語と他言語の混成言語)で行われる。また、ウェブサイトを34の言語に翻訳することも可能である。電話で直接問い合わせなどをする場合も、150の言語での通訳も可能となっている。
フリードマン氏によると、どのような消費者局においても、その権限が効力のある法律に基づくことが必須であるので、日本の自治体が消費者保護の制度の見直しや強化を考えているのであれば、ニューヨーク市の消費者保護法も一つの参考になる、と語っていた。
マシュー・ギラム上級調査員