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ニューヨーク市におけるバスサービス向上の取り組み②

2020年12月18日の投稿記事https://www.jlgc.org/ja/12-18-2020/9016/に引き続き、ニューヨーク市におけるバスサービス向上の取り組みについて紹介する。今回はSelected Bus Service(以下「SBS」という。)を取り上げる。

SBSとはニューヨーク市内を走る急行バスで、乗客が多いルートにおいて設置されている。何年にもわたる計画とコミュニティへの働きかけを経て、2008年からニューヨーク市とMetropolitan Transit Authority (以下、「MTA」という。) の協働により導入された。最初に導入されたのはブロンクス地区のFordham Road -Pelham Parkway(BX12)。SBSが導入されたことにより、初年の同ルートの移動時間は20%短縮、乗客は10%増加した。この結果を受けて、ニューヨーク市とMTAはSBSの拡充に着手し、現在では乗客の多い16のルート(図1)に導入されている。各SBSの導入に当たっては、コミュニティや事業改善地区組織、小売商協会、市民グループが州政府や地元の議員とともに計画に加わった。

図1

住民の意見を取り入れながら、バスのスピーディーさを確保するためSBSのルートでは次のようなシステムを整備している。

・最小限のバス停留所

バスの停留所を少なくすることで移動時間の短縮を図っている。図2のとおりMTAが運行するニューヨーク市内を走るバスはSBSの他に、ローカルバス、リミテッドバスがあり、それぞれ停留箇所が異なる。その他、エクスプレスバスがあり、主に平日のラッシュ時間のみの運行で、市内の5区間をつないでいる。

図2

・乗車前の運賃支払いシステム

ローカルバスやリミテッドバスは運転手のいる前方ドアより乗車し、そこで運賃を支払うが、SBSは乗車前に支払う。SBSの停留所付近に発券機(図3)が設置されている。コイン等で運賃を支払うと機械よりレシートが出てくるのでそれを持って乗車する。乗車は運転手がいる前方ドアに限らず全てのドアが利用可能。MTAはランダムに検札を行っており、乗客は運賃を支払った証明としてレシートを持っていなければならない。レシートがない場合100ドルの罰金が適用される。

図3

また、以下のとおりSBSも含むバス全体の運行改善のために様々な対策が導入されている。(ルートにより整備状況は異なる)

・バス専用レーン

バス専用レーンが赤色に染められており、白地で「BUS ONLY」と書かれている。バス専用レーンは2種類あり、縁石沿いのバスレーン(図4)では、バスレーンが適用されている時間帯以外は一般車両の通行が可能。時間帯の確認は標識で行う。もう1種類は縁石から1レーン離れて設定されている。縁石とバスレーンの間のスペースは駐車や荷物の積み込みに利用できる。(図5)

図4

図5

・バスレーン監視カメラ

州議会の承認を得たルートについて、バスレーンのルール遵守のために監視カメラが設置されている。カメラに映った違反は、まずニューヨーク市の運輸局が確認を行うが、違反の裁定は市の財務局が行う。運輸局は市警察と協力してバスレーンのルール遵守の徹底に努めている。

図6

・歩道の拡張

バスレーンに合わせて歩道を広げている。これにより利用者の待合スペースが広くなり、バス待合所、ベンチ、樹木等の設置が可能になる。バスは走行レーンを外れることなく停車が可能になる。また、縁石の高さはバスの床の高さとできるだけ同じになるよう調整されている。これによりバスの乗降がよりスムーズとなる。

図7

・リアルタイムのバス到着情報の提供

次のバスの位置情報をMTAのバスタイムシステムで提供している。利用者はバス待合所の電光掲示板やインターネットで情報を得ることができる。

・歩行者の安全確保

交差点付近の歩道を拡大することで車が曲がる際のスピードが落ち、さらに横断距離が短くなるため高齢者や子供などの歩行の安全性が確保できる。

図8

・バス待合所の設置

椅子などが設置されたバス待合所が設置されている。

図9、図10

・信号優先システム(TSP)の設置

GPSによりバスが交差点に近づいた時に信号が青に変わるか、青信号時間の延長ができるシステム。バスの交差点の通過をスムーズにする。詳しくはhttps://www.jlgc.org/ja/12-18-2020/9016/ 参照。

2017年のニューヨーク市の報告によれば、SBSが始まった約10年で、バスの運行時間は10〜30%短縮し、乗客は約10%増加した。またバスへの信用度も上がり、乗客のバス利用満足度は95%となっている。道路の安全性も向上し、衝突事故も減少した。
こうしたSBSの成功から、ニューヨーク市とMTAはワークショップを通じて得た住民等からのフィードバック、路上やオンラインでのアンケート調査を基に、新たに21のSBSルートを選定し導入に向け取り組んでいる。SBSのルート拡大により、市内バス運行の更なるサービス向上を図る。

図11

図1、4〜11 :ニューヨーク市ホームページより抜粋

図2、3:MTAホームページより抜粋

(舘所長補佐 茨城県派遣)