ブルームバーグ市長は1月12日、ブロンクスの高校において施政方針演説を行った。演説の半分以上を教育問題に費やし、改革への強い意欲を示した。UFT(ニューヨーク教職員組合)を何度も名指しで批判したことから、早速議論を呼んでいる。以下、教育改革に関する部分の概要を紹介する。
過去十年間で我々が道を切り開いてきた教育改革は、反対論者たちの否定をよそに、今や我が国全体で広く導入されている。今年はさらにアクセルを踏み込みペースアップをする。そのための5つのステップを紹介しよう。
ステップ1は、教師の能力向上である。まず、大学を優秀な成績で卒業した学生を採用するため、最大$25,000の学費ローン補助を行う。学費ローン返済の負担は、時としてトップレベルの学生の職業選択肢から教職を排除してしまう。しかし我々は彼らの能力を教室で活かしてもらいたい。我々の子供が彼らを必要としているのだ。そして、優秀な教師の雇用維持のため、能力給を拡大する。二年間継続して高い評価を得た教師には、最大で年間$20,000の昇給を行う。UFTは歴史的に優秀な教師に対して能力給で報いることに反対してきたが、協力を求める。
ステップ2は、客観的指標に基づく業績評価制度の導入である。これにより、能力のない教師は解雇されることとなる。真の評価制度は、生徒の成績の改善と校長の評価という、測定可能な指標に基づくものである。唯一それにより、真の改革がなされる。すべては子供たちのためだ。NY市1700校中の、問題のあるわずか33校で評価制度を導入しようとした際には、UFTが反対した。このため我々は州政府から得られるはずだった$5,800万の改善補助金を失った。つけは生徒たちに回る。我々は無能な教師が学校にとどまるのを、指をくわえて待っているわけにはいかない。現行制度の枠内においても、市当局は学校単位で委員会を設置し、評価に基づき最大50%の教員を交代させることができるのだ。
ステップ3は、学校の選択肢の拡大である。この10年間で新設された高校は500校あるが、うち139校はチャータースクール(税補助を受けるが、公的教育規制を受けない学校)である。今後二年間で新たに開設する学校100校のうち、50校をチャータースクールとする。そして既にNYで成功しているチャータースクールの運営者に加え、まだNYに進出していないチャータースクール運営者の誘致も促進する。
ステップ4は、生徒たちに、大学と職業に対し十分な準備をさせることである。今日、高校卒業後成功するために必要とされるスキルを身に着けないまま卒業していく生徒が多すぎる。大学進学だけでなく、すべての生徒が、それぞれの人生の次の段階において成功するための準備を済ませて卒業しなければならない。このため、新しいカリキュラムを導入する。一方、民間との提携を推進し、徹底的な大学と就業への準備作業を行う。昨年はIBMとのパートナーシップによる革新的なコンピューターサイエンス学校を開設した。今年はニューヨーク市立大学との協力や、ベンチャー企業との協力によるソフトウエア・エンジニアリング・アカデミーもする。今後二年間で、少なくとも12校の新たな技術教育学校を開設する。教育プログラムは世界経済のトレンドに歩調を合わせる。校外インターンシップも拡充する。このためには多くの民間部門のパートナーが必要である。高校生と彼らの進路を結びつける新たな取り組みに参加する企業のひとつを、私は誇りを持って紹介する。ブルームバーグLPである。
ステップは5、学費の支援である。子供たちが教育や訓練を受ける準備が整った時には、いつでもそれを可能とさせなければならない。我々はまた、ニューヨーク州のドリーム・アクト法成立に向け先導的な役割を果たしていく。不法移民の子として幼児期または十代にニューヨークに連れてこられた子供たちも、州政府補助の大学ローン、補助金、奨学金に申し込むことができるようになる。既にここで暮らす彼らが社会の生産的なメンバーとなれることを保証することは、ニューヨーク市の最大の利益となるものだ。私は大学を卒業するためにローンを組んだ。だから、お金の大切さを知っている。すべての学生は、彼らの成功のためには金銭補助を受ける資格があるべきなのだ。
私が概要を示した5つのステップは、政治の問題ではない。子供たちの問題なのだ。UFTと交渉の席に着くと、彼らには二つのグループがいる。UFTの立場に立つものと、生徒たちの立場に立つものだ。我々は生徒たちのために働いていて、これからもそれは変わらない。我々には彼らの命を守る義務がある。彼らの将来、希望、そして夢を守る義務があるのだ。彼らの声こそが、我々が耳を傾けるものであり、今こそ我々全員が彼らの声を聴かなければならない時なのだ。彼らは明日のリーダーたちだ。医者、弁護士、そして市長になるかもしれない。彼らは明日の経済を率いていくだろう。
施政方針演説の中で、ブルームバーグ市長は改革の障害として何度も教職員組合を名指した。また、教育において最も議論の対象となる問題、成果報酬、教員の評価、チャータースクールの大幅増設について積極的に斬り込んでいく姿勢を示した。教員組合は早速「市長は空想の世界(fantasy world) に住んでいる」と反論し、対決姿勢を示している。
市政監督官ビル・デ・ブラシオは「必要以上に挑発的」と批判し、マンハッタン区長スコット・M・ストリンガーは「市長はローンレンジャー」と評した。市議会議長クリスティン・C・クインはより慎重ながら「プランは非常に攻撃的」と表現した。この3氏は2013年の市長選に立候補することが予想されている。一方、ニューヨーク州のクオモ知事は声明を発表し「建設的なビジョン。ともに推進していきたい」とブルームバーグ市長を賞賛した。
2002年に市長に就任したブルームバーグの3期目の任期は、残り2年。この2年間で、ブルームバーグ伝説に教育改革という最終章を加えることができるか、今後の展開に目が離せない。
2012年1月17日
NY事務所次長 園原 隆